騒音で発電しよう。世界に挑んだ日本人学生たち

左よりHummingbirdチームの袴谷優介、須田隆太朗。メンターを努めたトーチリレー 神保拓也


マクアケの北原は、何度も問い続けた。

「それは、君たちが本当にやりたいことなの?」

北原から見た初期のhummingbirdは、ビジネスコンテストを優勝するための美辞麗句を重ねている印象が強かったという。マクアケでもチャレンジングなプロジェクトに伴走する中で「残念ながら起案者が息切れしてしまうものもある」と語る北原が重視したのは、彼らが納得いくビジョンを掲げ、その実現に強く使命感をもてるか、という点だった。

「レッドブルは彼らに世界に挑戦する機会を与え、環境をつくり、翼をさずけました。でも、羽ばたけるかどうかは彼らの意思にかかっています」

冒頭に述べた通り、上位10チームに残ったhummingbirdだったが、上位3チームで行われる決勝までは進むことができなかった。

2020年のベストアイデアに選ばれたのはイギリスの「Lava Aqua X」。シャワーを浴びるときの水で服を洗える携帯型洗濯機で、すでに学生寮などに導入されているなど、実現性の高さが評価された。

「全力で挑んでいたので悔しいですが、その一方で彼らは好きなチームだったので、仲間としてうれしさも感じました」と、須田は振り返る。

最終プレゼンの前に行われたオンラインでのワークショップで彼らが最初に会話をLava Aqua Xは事前にhummingbirdを知っており「音で発電するアイデアは素晴らしいね!」と意気投合していた。

このイベントを経て、TEDxDonauinselのキュレーターを務めるマティアス・ハースから「hummingbirdをスピーカーとして招待したい」とチャットで連絡がきたという。袴谷は言う。

「世界中の同世代のイノベーターと会話をするなかで生まれてきた考えがあります。それはhummingbirdのように自分のなかから生まれるもので世界を変えられるという予感でした。僕も世界を変える一人なんだと、今は強く信じています」


もし音から電気を起こせたら? 空気中の音波を集めて電気に変換する技術を応用し、自分たちの生活音から発電する。きわめて小規模の発電が、社会に対してどのような価値を提供できるかを探りながら、サステナブルな社会の一助となることを目指す。プロジェクト名の由来は、燃えさかる森の炎に向かい、小さなくちばしで水を運び続けたハチドリの寓話から。


袴谷優介(YUSUKE HAKAMAYA)◎慶應義塾大学文学部在学中。現在はエンジニア養成機関「42 Tokyo」でもプログラミングを学び、エンジニアを目指している。4月からは大手通信事業会社で働く予定。

須田隆太朗(RYUTARO SUDA)◎東京大学工学部在学中。2019年からはイスラエルの企業でもアナリストとして働く。第4回CO.NECT東京大学ブロックチェーン学生起業家支援プログラム選出。MAKERS UNIVERSITY6期生。

神保拓也(TAKUYA JIMBO)◎トーチリレー代表取締役。中央大学経済学部を卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)、PwCアドバイザリーを経て、2010年、ファーストリテイリングに入社。経営者育成機関FRMICの立ち上げ、グローバルサプライチェーンマネジメント担当などを手がける。16年、執行役員に就任。18年、上席執行役員に就任。20年、トーチリレーを設立。
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Text by Tsuzumi Aoyama | photograph by Kotaro Washizaki

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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