結論から言えば、2つの理由から米国での上場はやはり意味があると考えられる。
1つめは研究者が「接合(bonding)」と呼ぶ現象にかかわっている。説明しよう。複数の市場で株を所有している人は、投資家保護や情報開示の水準がサーベインス・オクスレー法のある米国ほど高くない市場があることをご存じだろう。
たとえば、フランス民法の規定に従って上場している企業は、少数株主の保護が相対的に弱いと言われる。だが、こうした企業が米国で上場した場合、少数株主の保護が改善されることがある。これが接合である。研究者たちは重複上場している企業の分析から、接合によって実際に投資家保護が改善することを確認している。
一方で、市場の分離(segmentation)はそう短期間で解消されるものではないと主張する研究者たちもいる。彼らは20社の事例を詳細に検討した結果、市場の分離は接合よりも2倍ほど強力と結論づけている。
ここからは次のことが示唆される。資本市場は思われているほど効率のよいものではないこと。ほかの条件がすべて同じなら、新たな場所での上場によって新たな資本にアクセスできる可能性があること。そして、それによって企業のバリュエーション(評価額)がやや上がり得ることである。
ある研究によれば、米国などほかの市場への重複上場を発表した企業は、株価が平均で1%上がっている。また、後者の研究者たちも、接合によって市場アクセスの利便性が高まることは認めている。
こういうわけで、米国市場で上場廃止になった中国企業では2つのメリットが失われるおそれがある。投資家側にとっては、米国の法律で保障される保護や情報開示、企業側にとっては米国の投資家へのアクセスである。
複数の市場でわざわざ上場するのにはコストもかかるが、資本の移動がしやすくなっている今日もなお、それにはメリットがあると言えそうだ。