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規則から言えば、公益財団法人の会長を選ぶのは理事会による理事の互選である。理事会が機能していればそれで済む話である。森氏の問題発言を受けて、理事の一人が問題提起して会長辞任を求めることもできるし、7名いた女性理事が行動を起こすこともできたであろう。しかし、現実はそうはならなかった。

森氏が組織委の全てを動かしている状態では、理事は森氏に全てを任せて、口を挟むことは憚られた。事務局が準備した資料を基に、賛成をすればいいだけだった理事会であったと思う。もちろん会議では数々の意見は出ただろうが、叩き台はお膳立てしなければ事は進まない実態であったはずだ。

会長辞任、会長後任人事も森氏が動いて始末をつけなければならず、その過程で川淵氏へのアプローチが見えてしまったのであろう。その段階で様々な意見はあったものの、多くの人々は「あ〜川淵さんなら」と思ったのも事実ではないか。森氏とすればその世論を味方につけて自らの思い通りの後任人事を行うつもりだったとも取れる。しかし世論は「密室」人事と反発し、その反発に政府が「選定の透明性を求める」とし、「透明性」が正論となった。


Photo by David Mareuil/Anadolu Agency via Getty Images

検討委員会のやり方はこうだった。

まず会長に名誉会長の御手洗氏を議長として、メンバー構成は、理事からアスリート中心に男女比を半々にするというもので、これはオリンピックの規範からは常識的である。その委員会によって2月16日の第一回目の会議で選考基準を決め、その基準に沿って、各委員が候補者を持ち寄る。翌17日、第二回目の委員会で候補を三名に絞り込む。

そして第三日目に一人に絞り、理事会に提案、もしその候補者が現理事メンバーでなければ、評議員会による理事の任命が必要なので、評議員会を開き、理事として、その後の理事会で会長を決める。候補者が理事であれば、評議員会は開くことなく、理事会で会長を決める。

実際に計画通りに事が進めば、回りくどいが、理事会が作動したことと同様となるので、ここに敢えて「透明性」を掲げる事はないだろう。選ばれた過程を説明すれば事は足りる。そして、事は予定通りに進み、2月18日、正式に橋本組織委会長が誕生した。この段取りは合理的によく考えられたものであり、公平性のあるものに思える。

問題は全く別のところにある。

守秘性を重んじた候補者検討委員会であった故にメディア側はニュースソースを取得できずにいた。漏れてきた情報を組み立てて様々な推測が流布した。その中で多く語られた言葉に「政権が望んでいるのは・・・」があった。菅首相は川淵氏の名前が上がった時に「もっと若い人、女性は?」と言ったという情報もあった。そして12日の時点で既に橋本プランが存在したという言説も後に語られている。問題はそこである。

11日に川淵三郎(組織委評議員)日本サッカー協会元会長が、森会長(当時)本人から後任の要請を受託した翌日12日に、私は昼の情報番組に生出演していた。川淵組織委会長誕生を前提に進められた番組が佳境に入った時に「川淵氏会長候補、政府が透明性を求め白紙」の速報が入ってきた。スタジオは動揺したが、私がショックを受けたのは「政府が透明性を求めた」ということだった。

「これは政治のスポーツへの介入と捉えられかねません。IOCはスポーツ団体の自律には鋭い視線を浴びせています。最近ではイタリアオリンピック委員会が承認取り消しの危機に晒されていました」と述べ、スタジオの空気は一変した。政治とスポーツの問題にテーマが変化していった。

文=春日良一 編集=宇藤智子

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