技術の「継承」ではなく、「手ほどき」
「業界トップの一人から指導を受けられる、それが父親だなんてとんでもなくラッキーなことです。私だけの幸運です」と、ジャドは打ち明ける。
父親から菓子作りに必要なあらゆることを教わっているが、それを元にジャドは同じように美しい味覚のメロディーを見つけなければならない。だがジャドは、それは技術の「継承」ではなく、父による「手ほどき」の期間と言われるのを好む。すべては生まれた時から始まっていたからだ。
「ずっと味覚の教育をされてきました。父のかたわらで様々な国の料理を味わい、目からウロコの経験を何度もしてきました。アラン・パスカールでのディナー、アルジェリア人シェフ、アクラム・ベナーラルの料理、シモン・ホロヴィッツのチョコレートタルト、スリランカのマンゴーシチュー、カリブ海風のバナナフランベ……。美食は実にデリケートな科学です。古代ギリシャ人がアポロの肉体を崇拝したように、私は美食を崇拝しています」
確かにジャドのように毎朝、「ヘンゼルとグレーゼルのお菓子の家(それも魔女ではなくチョコレートに囲まれた家)」に出勤するのは幸せなことだろう。だがジャドは父親の店とはいっても、決して見習いをサボることも、親の七光りを利用することもしなかった。一人の職人見習いとして必死に働いた。父親は「鶏小屋に雄鶏は1羽しか入れないものだ」と断言していたので、自らの力を示さなければならなかったのだ。
見えずとも、ごまかしは一切しない
(c)BoutiqueJacques Genin
「私たちの店はごちそうのワンストップ・ショップであると自負をしています」
ジャドはパティシエの帽子をかぶりながらも日々、「自分はまだ未熟であること」を意識している。その行く手には店を継ぐという厳しい道が待ち受けているのだ。
「安定して最高のものを作り続けることは、美食を担う職業においては非常に難しいことです。おいしいチョコレートを一つ作ることは一度のことですが、何十年にわたって数多くのチョコレートを作り続けることは、もっと魅力的な目標となります」とジャドは言う。そのロードマップはジャック・ジュナンの足跡を継承し、守り、永続させるという強い願望でもある。
「私たちの商品の特徴は、保存料、着色料、食品添加物を一切含まないことです。砂糖の使用は最小限に抑えています。ただしそれは化学反応を起こすためであり、味覚増進のためではありません。ごまかすことは一切しません」と強調した。チョコレートはどんな時でも健康的な喜びをもたらし、口元を笑顔にする幸せの食べ物であり続けなければならないからだ。
(c)BoutiqueJacques Genin