こう話すのは秋田県潟上市で美容室を営む菊地ユキさん(51)。
地域で初めて発達障害の診断を受けた長男・大夢くんを育て、苦労の末に東大の大学院に入れたシングルマザーだ。
菊池さんは、これまでの育児のことをまとめた『発達障害で生まれてくれてありがとう〜シングルマザーがわが子を東大に入れるまで』(光文社)を上梓した。
本稿では、「発達障害を持つ我が子と『合わない先生』との向き合い方」について、菊池さんが実際に出会った先生とのエピソードを同書から引用・再編集して紹介する。
小学校に入学早々、大夢くんが発達障害の診断を受けると、菊地さんはその事実を学校の先生や父兄、そして大夢くんの級友にも公表。結果、学校は彼の特性に配慮してくれるようになり、父兄からの苦情も減った。さらにクラスの子供たちも、大夢くんのちょっと変わった特性=彼の個性と認めるようになった。
こうして、少しずつ大夢くんは落ち着いて学校生活を送れるようになったのだが……。3年生になって担任教諭が変わると、大夢くんはふたたび、不安定に。その担任教諭のことを、菊地さんは著書のなかで次のように紹介している。
できないのは甘え。特別扱いはしません!
〈そして、3年生になった大夢の担任となったのがK先生。
私よりも少し年上の女性の先生でしたが、大夢とK先生との相性は……。
長いキャリアに裏打ちされた、自分なりの指導法をお持ちで、なによりも常識を重んじる、そんな先生だったと思います。おそらく、一般的なお子さんが相手であるならば、とても熱心で、とても優秀な先生のはずです。〉(本書より)
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ただ、このK教諭と大夢くんとの相性は……残念ながら最悪だった。
大夢くんが3年生になってすぐのこと。帰宅しても落ち着きのない息子のようすを見て心配になった菊地さんが学校を訪ねると、K教諭は彼女にこう宣告したという。
「お母さん、大夢くんは普通の子ですよ。やればできるはずです。特別扱いはしません!」
その言葉に不安を覚えた菊地さん。当時の心境を著書ではこう綴っている。
〈もちろん、大夢がADHDの診断を受けているということも、K先生はご存知のはずでした。それでも、彼女はあくまでも大夢を「普通の子」として、扱おうとしていました。
私だって本心では、それができるなら、どんなに嬉しいかわかりません。
でも、大夢は決して不真面目だから、毎日のように忘れ物をするわけではないのです。意地悪したくて、誰かのことを怒鳴ったり打ったり蹴ったりするんじゃないんです。怠けたくて、全校集会に参加できないわけではないんです。授業中、悪ふざけで奇声をあげて教室の床に寝そべっているわけではないんです。(中略)
「大夢はほかの子とは違うんです。頭が故障してるんです。だから、依怙贔屓と周りから思われてもかまわないので、特別扱い、してください」
そうお願いしても、K先生は「大夢くんは普通の子、真面目にやれば必ずできるんです」と頑として譲ってくれません。〉(本書より)。
「できないのは、やる気がないから」「そこで我慢すること覚えないでどうするんですか」「ここであきらめたら、このまま怠け癖がついちゃう、そういう人間になっちゃいますよ」