こう言って笑うのは、秋田県潟上市で美容室を営む菊地ユキさん(51)。
シングルマザーの菊地さんは、地域で初めて発達障害の診断を受けた長男を女手一つで育て上げ、経済的にも時間的にもまったく余裕のない暮らしのなか、苦労の末に東大の大学院に入れたのだ。
8月19日には、『発達障害で生まれてくれてありがとう〜シングルマザーがわが子を東大に入れるまで』(光文社)を上梓した。
その本の「はじめに」で、菊地さんは次のように語っている。
「私は決して教育や福祉、ましてや医療の専門家でもありません」
さらに「あとがき」には「どうして、発達障害の大夢くんは、東大に入れたんでしょう?」「大夢くんをのような子を育てるときのコツは?」「どうやって勉強させたら成績が上がったの?」などと周囲から問われるたびに、菊地さんは真剣に考え、思いを巡らせてはみたものの、結局のところ、やっぱりどうして息子を東大に入れることができたのか「正直、わからない」と、ここでも著している。
それでも、菊地さんが日々の子育てのようすを詳細に綴った本書を紐解くことで、幾つかのヒントは見つけられそうだ。
ここでは何回かに渡って、菊地さんがいかにして長男・大夢くんを育てたのか、どうして大夢くんは東大に入れたのかを、紹介していきたい。
「わが子は発達障害」という事実を、すすんで公にした
それは、いまから20年近く前、長男・大夢くんが小学1年生のとき。まず、大夢くんに「発達障害の疑いあり」という診断がおりる。
そこで、母・菊地さんは、20冊もの専門書を読み漁り、発達障害とはどういうものかを学び、わが子の特性を大まかに理解した。そのうえで、次に菊地さんがとった行動は……。
専門書を学校に持参し、担任の先生に息子の行動の理解を求めたという。
<私は、小学校の担任の先生のところにも、何冊か本を持参しました。(中略)本のなかでも主に大夢に近い特性が紹介されている箇所や、どういった状況に置かれると、困った状態になるかといった解説部分に、蛍光マーカーで線を引いて、手渡しました。
「先生、この線のところだけでもいいから読んでください。こういうとき、この子の問題行動が、症状が出る感じなので」>(本書より)
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本に目を通した担任教諭は、大夢くんの級友にも彼が発達障害であるということを「話していいか?」と尋ねたという。それは、先生が彼を特別扱いすることを、ほかの子どもたちに理解してもらうため、と。
それに対して菊地さん、教諭があっけにとられてしまうような、男前な言葉を返している。