猫を救うふるさと納税のはずが 寄付の「正しい」使い方

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ニューヨーク9・11同時多発テロ事件のとき、アメリカ赤十字が、被害を受けた家族のための寄付について「今後こういう災害が起きた時のための即応性を高めるための組織基盤強化にも使います」と言ったら、不適切な流用だと大きな非難を受け、結果としてアメリカ赤十字の事務局長は退任しました。

寄付者から言えば、「『被災者のために使って』って寄付したのに、何で赤十字の組織基盤強化のために使われるわけ?」ということです。

和歌山市の事例の問題点


和歌山市の話は、それよりもっとひどい。目的と違う使い方をしていて、しかも、最初の説明が事実に反していた(注:2020年9月24日、和歌山市議会の委員会答弁で寄付の目的外使用が明らかになり、SNS等で問題視された後、市は答弁を撤回し、担当者が集まった寄付全額を年度内に使い切ったと誤解していたためと説明。10月1日には寄付のうち残った1544万円で動物愛護管理基金が設置された)。後から「確認漏れでした」という答弁は、確かにそうだけど、でも最初の説明は「これで乗り切れるだろう」と思ったからですよね。

意義も成果も「根拠を出せ」と言われても、出せない。でも、うまくいってなければ、「これとこれは実施したけれど、結果としてうまくいっていない」と、真摯に謙虚に言えばいいんです。

最初から、(寄付が集まりすぎて1会計年度で使い切れないというなら)「5年かけて使います」と言えば良かったのに、「お金があるから(別の用途に)使おう」っていうのがゆるい。そもそもマネジメントがだめ。他の自治体の名誉のために言えば、よそではそんなにゆるくないです。

もっと言うと、ふるさと納税は、税収ではない以上、一般財源にすべて繰り入れなくてもいい。つまり、「犬のため」と集めたら、「犬のための基金」として、一般財源ではなく基金として残しておいてもいいわけです。

ところが、一般財源に入れてしまった。それも、予算策定時点の見込みより大幅に上回って集まったというのが本当だったら、補正予算を組まなければいけないはず。そもそもの財政規律の手続きが適切に運営されていなかったのだと思います。

もちろん、ふるさと納税を全部、基金にしろと言うつもりはありません。本当に財政的に苦しくて、昔作った借金の返済に使いたいと言うなら、それはそれでいい。基金にしなくても、「使い途は借金返済」としていいわけです。

しかし、目的を明記して募ったなら、基金にしておいた方が管理しやすい。「この目的のために使う」と行政側から言った以上、そう期待されるのは当然です。厳しく言えば、「使い途にマルをつけてください」と言ってる時点で、「契約」に近い。このように、受託者責任は発生している。しかし、事務管理面ですら、その責任が果たされていなかった。

寄付がどれだけ集まるかは、やってみなければわかりません。だからこそ、「たくさんお金が集まった場合、逆に、期待通りに集まらなかった場合はどうするか」について、あとからでもきちんと検討できるようにするために、基金にするべきだと思います。せっかくたくさん集まったのに、年度内で使い切るなんて、寄付者は誰も期待していないのに、もう本当に意味ないですよね。そんな扱いをされないためにも、最初から基金として別枠にしておけばいいと思います。

後編に続く


川北秀人◎1964年大阪生まれ。87年に京都大学卒業後、リクルートに入社。国際採用・広報・営業支援などを担当し、91年に退職。その後、国際青年交流NGO「オペレーション・ローリー・ジャパン」の代表や国会議員の政策担当秘書などを務め、94年にIIHOE設立。NPOや社会責任志向の企業のマネジメント、市民・事業者・行政などが総力を挙げて地域を守り抜く協働・総働の基盤づくり、企業のみならず、NPOや自治体における社会責任(CSR・NSR・LGSR)への取り組み推進を支援している。

編集=縄田陽介

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