コロナ禍の困りごとを政府につなげ! 青年経済人たちによる緊急提言の内幕

日本青年会議所の第69代会頭石田全史


その日に避難所を回り、家族との再会を果たし、社員の無事も確認できた。しかし、石田が当時、所属していた浪江青年会議所のメンバー35人全員が住む場を失い、県の中心部、もしくは県外に避難したという。5月になり、当時の理事長が避難所にメンバーの招集をかけたが、集まったのはわずか7人。

「正確に言うと、そのほかのメンバーは来られなかったのです。原発事故の被害は想像以上で浪江町は一時避難地域から避難地域に指定されました。彼らは本業と家族を守るだけで精いっぱいだったのです」と、当時の様子を語ってくれたのは、現浪江青年会議所理事長の鈴木一成だ。鈴木は穏やかな口調で、当時のことを懐かしみながら語ってくれた。

「今後、浪江青年会議所をどうするかを話し合うために集まりましたが、誰もが長い時間ずっと沈黙していました。運営を継続する場合、組織を再建するために誰かが理事長にならなければなりません。そんな余力など誰にもなかったはずです。しばらくすると、石田さんが、『オレが来年、理事長をやるよ。いまここで解散したら、ほかのメンバーが戻ってきたときに寂しい思いをさせてしまう。それに避難している地域の人たちのためにも故郷を残す活動がしたい。必ず、再建させるから、オレについてきてほしい』と言ってくれたのです」

東日本大震災の政府の対応、被災者支援には多くの問題もあった。この震災で経験した数々のことが、このコロナ禍でも生かされている。

しなやかに変化する


このコロナ禍でも日本青年会議所はできる限りの社会貢献活動を行っている。医療従事者応援プロジェクトでは、マスクが不足するなか、クラウドファンディングで資金調達し、購入した医療用のN95マスクを全国の医療機関へ寄付した。

東京オリンピックが開催されるはずだった7月24日には、事前告知もなく、全国117カ所で花火を打ち上げた。

「はじまりの花火」と銘打たれたこの企画は大成功に終わり、多くのメディアに取り上げられた。発案者のひとりである東北の花火師は、日本青年会議所のOBであり、石田の先輩にあたる。現役世代とシニアメンバーが協力し、コロナ禍で元気を失った日本国民を勇気づける目的で打ち上げた花火は、国民から歓迎された。「はじまりの花火」は、今年の日本青年会議所の活動のなかでも最もダイナミックなものだったといえる。

「私は、今年、日本青年会議所のメンバーに、成果を残す喜びよりも、自らが成長したと実感できる自信を育むことを大切にしてほしいと言い続けてきました。日本青年会議所に入会したからといって、大きなことをやる必要はありません。それでは、自分の生業や生活に支障をきたし、すぐに疲れ果ててしまう。身近な課題から取り組んでもいいのです。自らが幸福を感じ、困っている誰かが笑顔になることが私たち活動の原点だと思うのです」

現在、欧州を中心に新型コロナウイルス第3波が起きている。日本もいつ再び感染拡大が起きても不思議ではない。だからこそ、危機に対して、しなやかに自らが変化していくことが大切である。これが石田のいう、レジリエンスの強化である。


いしだ・まさふみ◎1980年、福島県生まれ。双葉不動産代表取締役。中央学院大学卒業。2004年、浪江青年会議所入会。12年、同理事長に就任し、被災地復興に努める。2020年、日本青年会議所第69代会頭に就任。

文=明石康正 写真=後藤秀二

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事