コロナ禍の困りごとを政府につなげ! 青年経済人たちによる緊急提言の内幕

日本青年会議所の第69代会頭石田全史


2020年4月上旬、緊急事態宣言がまもなく発令されることを察知した石田は、全国の各LOMの理事長とオンライン会議を開始する。多いときで1日5回にも及んだ会議では、各回1時間以上かけて、緊急事態宣言の発令に備えて、さまざまな社会変動を想定しながらアドバイスを送った。

それだけではない。国内会議と並行して、各国の青年会議所の会頭ともオンラインでミーティングをしていたという。

「正解のわからないパンデミックへの対応において、国際連携の必要性を感じ企画したものです。韓国、香港、台湾、イギリス……、各国がどのようなコロナ対策を推進し、各国青年会議所がどのような活動を行っているのか、対話を重ねました」

実際に緊急事態宣言が発令されると、石田の予測通り、中小企業の経営の行き詰まりが鮮明になっていった。オンライン会議を続けていくなかで、日本社会の最上位の課題として行き着いた石田の答えは、レジリエンスの低さだった。緊急事態宣言下で、再度、JCCSを活用した。前回と同様のアンケートをとると、回答数は前回をはるかに超える5000に達した。メンバーの疲弊は想像以上だった。

緊急事態宣言が解かれる直前の2020年5月20日、今度はウイルス対策の舵をとる西村康稔経済再生担当大臣と面会する。そこで2度目の緊急提言書を提出した。

「国の政策をいくら批判しても、社会は何も変わりません。西村大臣との会談では、時間とともに判明してきたコロナ禍の状況を踏まえ、有識者からの声を集めエビデンスに基づいた提言書を提出しました。何より訴えたかったのは、感染防止と経済活動の両立です。コロナ以後の中小企業を救うために、より具体的な対応策を明記しました。

岸田政調会長との会談でも話したことですが、やはり、まず支出を止めることが先決。具体的には、中小企業にとって大きなウェイトをしめる金融機関への借入金返済の一時停止は素早く実行してもらわないといけません。特に会社の継続を諦めかけている観光業、飲食業を支えていく計画案の作成に力を入れました。

レジリエンスを強固にするプランや、業種別のガイドラインを提案しました。後に検証すると、こちらも提出した提言書の約6割が政策とリンクしていました。『GOTOキャンペーン』へつながる一助にもなったと思っています」

緊急事態宣言が解除されると、感染者数も減少した。テレワークができない小売店などの経済活動も徐々に再開されていく。日本青年会議所が提言書に入れた「新たな生活様式」も多数採用され、その後、国民に浸透していくことになる。この間、石田の気持ちが揺るがなかったのは過去に経験した、あの最悪の災害のときのことが脳裏に浮かんだからだろう。

東日本大震災の記憶


2011年3月11日、東日本大震災が発生。その翌日には福島第一原発のメルトダウンが起きる。当時、石田が住んでいた浪江町は一時避難区域に指定された。

「震災当時、私は青年会議所の行事で花巻市にいたのですが、すぐに浪江に戻りました。町の一部は地震と津波で壊滅状態でした。自宅や親族の家を回っても誰もいない。携帯電話をかけてもつながりません。東北地方ほぼ全域で停電が発生し、仕方なく非常用電源がある、私が経営している会社で一晩を過ごしました。

明け方、会社に突然、全身白い服を着た人たちがやってきて、『福島第一原発で事故が起きたようです。浪江町は警戒区域にはいったのですぐに避難してください』と言われました。それが初めて見た防護服の人たちでした」
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文=明石康正 写真=後藤秀二

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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