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2021.01.19

東大債、購入希望額は6倍超。ゴールは日本のお金を回すことだ

東京大学総長 五神 真


2018年秋口、吉本興業の意欲的な活動を知った五神から当時の社長・大崎洋(現会長)へ連絡がきた。「一緒にSDGsに取り組みませんか」。東大単独でSDGsの活動をすると堅苦しい印象になるため、吉本興業と一緒に広めたいと五神は語った。大崎は二つ返事で「やりましょう」と答えた。「東大のインテリジェンスと吉本のクリエイティビティを組み合わせれば、人を楽しませながらSDGsを広げられる」(岡本)

SDGs以外で、現在水面下で進んでいるのが、『火花』で芥川賞を受賞したお笑い芸人・又吉直樹と東大文学部の教授がオンライン対談をする企画だ。また岡本は人材交流にも意欲を示す。「東大のある教授が『より良い講義のためにコミュニケーション能力を高めたい』とおっしゃった。講義にエンターテインメント性をもたせるため、吉本興業の長年の芸事の経験や技術がいかせるかもしれない。東大債は40年債。人的交流やSDGsなど、長きにわたって協創したい」。

東大債は「三方よし」


東大は大学債の可能性を証明し、モデルケースになる責任感をもつ。「他の大学にも刺激を与えたい」と五神。国立・私立を問わず大学債発行のノウハウ提供や支援をするため、文科省と連携することも視野に入れている。

「東大債は三方よしです」と五神は語った。公共財を支える新しい仕組みをつくるため、官によし。巨額の滞留資産の受け皿となるため、民によし。税金を待たずに必要な先行投資を大学自身が判断できるため、大学によし。

かつて夢物語だとあきれられた五神のビジョンは、予想以上のかたちとなって実現した。2021年3月31日に五神は総長として満期を迎えるが、ここで終わりではない。彼の思いを受け継ぎ、社会変革を駆動する人々はたくさんいるのだから。

ごのかみ・まこと◎1957年生まれ。理学博士。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学系研究科博士課程中退。工学部講師などを経て、理学系研究科教授。専門は光量子物理学など。副学長、理学部長などを歴任し、2015年4月より第30代東京大学総長。

文=田中一成 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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