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2021.01.19 07:00

東大債、購入希望額は6倍超。ゴールは日本のお金を回すことだ


しかし、大学全体を取り巻く環境は厳しさが続く。2004年に国立大学法人化が行われたが、東大では若手研究者の任期なしポストが激減。不安定な雇用体制は、若手の機会を奪ってしまう。

「企業や社会が優秀な人材を生かして未来に向けた挑戦をする余裕がない。大学がその変化のきっかけを作らなければ根本的な解決はないと感じたんです。それが総長のポジションに就く動機でした」。15年4月、五神は第30代東京大学総長に就任した。

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東大では、2006年からの約10年間で任期なし教員数が激減した一方、任期あり教員数は増加している。継続的な研究のため、安定した雇用を求める若手の教員・研究員にとっては不安定な状況が続いている。

職員のマインドセットが変わる


五神は東大の潜在力を引き出そうと、組織の基本部分の改革を矢継ぎ早に進めた。同時に、企業との連携を本格的に推進し始める。16年6月に日立製作所と共同研究の場「日立東大ラボ」を設立、7月にNECとパートナーシップ協定を結ぶ。そして18年12月、10年間で100億円の拠出を約束したダイキン工業との連携を発表した。

連携の大きなテーマは、ダイキン工業の経営課題「空気の価値化」。同社のテクノロジー・イノベーション戦略室技術戦略担当部長の香川謙吉は「水と同じように、空気を価値化したい」と語る。

かつて日本では、「水を買うこと」は一般的ではなかった。しかし現在はブランド化・販売されている。一方で空気は、さまざまな空調製品が売られているが、競合他社同士、根本的な差別化はできていない。ダイキン工業は空気の新たな可能性を探り、東大の知恵を希求したのだ。

東大にとっての決め手は、ダイキン工業のもつ世界150カ国のネットワークだ。グローバル展開を短期で成功させているダイキン工業のノウハウや海外拠点は東大にとって魅力的だった。こうして巨大な産学協創がはじまった。

これまでに連携した目玉施策のひとつが、グローバル・インターンシップ・プログラムだ。東大の学生がダイキン工業の海外主要拠点へ赴き、ビジネスの最前線を体験する。初年度は募集人数50人に対し、学生からの応募は240人超。そのうち10人は3週間で4地域を回る世界一周型でビジネスを体験した。

学生のみならず、東大の職員にも好影響があった。「企業のスピード感に驚いた」と東大の社会連携部部長の蔭山達矢は語る。

東大側が「初年度は10〜20人、世界一周のプログラムは次年度以降にしよう」と提案したのに対してダイキン工業側からは「初年度から50人、世界一周もやりましょう」との返答があった。「ミーティングを重ねるにつれ、ダイキン工業様の海外拠点との連携の強さ、隅々まで行き届いた安全への配慮を感じ、安心して任せられると感じたんです」(蔭山)

他にも「LOOK東大」という目玉施策があった。東大の研究室にダイキン工業の社員たちを招き、交流や知見を深めるプロジェクトだ。現在までに、全19回開催している。ホスト役の教授は毎回変わり、ダイキン工業からは、累計数百に登る社員が参加した。最先端の研究をする教授たちは平易な言葉で研究内容を伝える。ダイキン工業の研究者、一般社員たちは前のめりに質問する。当初、東大とダイキン工業との間にあった心理的な距離もみるみる縮まった。
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文=田中一成 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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