今、ロサンゼルスで「干し柿」が絶賛される理由

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さらに面白いのは、日本伝統の保存食である干し柿を、酒井さんはなんとそのアメリカ人の農家から教わったのだそう。この冬は、近所の知り合いの庭の木に鈴なりに実った柿を、干し柿にちょうどいいタイミングで収穫し、ウェビナーに参加する生徒たちに送り届けた。

「彼らはインスタグラムで自分の作った干し柿をポスティングして見せ合いっこ(笑)。それは2万5千人くらいいる私のフォロワーの目にも触れます。このパンデミックのおかげで自分の教育の場がうんと広がって、すごく楽しくなりました」と酒井さんは微笑む。

「こっちの土で育った柿だし、アメリカ人から教わったレシピだし、日本では本物じゃないと言われるかもしれない。でもここで獲れて、この気候でつくる干し柿ならではの味わいも、またいいじゃないですか。ネットのおかげもあって、旬の果物を干して大事に保存するっていう日本の伝統に共感してくれる人がこんなにたくさんいるなんて、ずいぶん時代が変わったなぁって思います」

酒井さんは和食の特徴のひとつに、Beautyという言葉を使う。

「旬のもの、新鮮なものって美しいですよね。それに日本人って“間”を大事にするじゃないですか。盛り付けにしても、和食は大皿に山盛りじゃなくて、小鉢の中に少し“間”を残し、控えめに入れるのも美しいなぁって。ジャンクフードの食べ過ぎで肥満が増えているけど、日本の食習慣を取り入れたら健康になるんじゃないかな」

食糧農業機関(FAO)の駐日連絡事務所・前所長のチャールズ・ボリコさんは、「腹八分」という文化は日本にしかないと言っていた。和食の一番の特長は、そうしたバランス感覚だ、と。「腹八分」は、酒井さんのいうBeautyとも通じる気がする。

「日本の家庭料理って、日本が今、一番誇れるものじゃないかって思います。私は台所で外交をしているつもり。社会を良くしていくにはまずは家庭から。日本の家庭料理を伝えていけば、世界は絶対によくなるって、私はそう信じてます」

海の向こうから、私たちがここで当たり前のように食べている「毎日の料理」の価値に気づかせてもらった。エバンジェリストとしての目標が見えてきた。私も頑張らなくちゃ。

連載:それ、「食」で解決できます!
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文=小竹貴子 構成=加藤紀子

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