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それ、「食」で解決できます!


「和食って鮮度、旬、美しさ、始末の精神、そして素材そのものへのリスペクトがあります。素材を活かし、素材自身に語らせようと、自然の風味を引き出す。料理の中でもすごくエッセンシャルなんですね。海外に住んでいると、その価値がよりはっきりとわかるんです。

でも今60代の私が、明治生まれの祖母、そして母から受け継いだ和食文化が、だんだん失われてきている気がしていて。だからこそ自分が生きているうちに、できる限りストーリーとして記録して、遺しておきたいなと思ったんです」

酒井さんはフードライターとして、地元ロサンゼルスの新聞に10年以上和食に関するコラムを寄稿し続けたほか、自宅で料理教室を開き、味噌、梅干し、餅、干し柿、蕎麦打ちからちゃんこ鍋、日本風のカレーライスまで、日本の家庭料理における基本を教えてきた。評判は口コミで広がり、全米のメディアからも注目されるようになった。

日本の家庭料理を伝えていけば、世界は絶対によくなる


ところがパンデミックによるロックダウンで教室は閉鎖。だが彼女はその苦境にめげず、料理教室をウェビナーによるオンラインに切り替え、さらに材料をキットにして生徒の家に送った。コロナ禍で外出さえままならない中、買い物のストレスなく自宅のキッチンで気軽に楽しめるようお膳立てをしたのだ。

すると瞬く間にアメリカ全土から何百人も、中には遠くハワイ、香港、インドネシアなどからも参加者が集まるようになったという。

「アメリカ人って、缶詰や電子レンジで温めるだけの食事しか作らないイメージがありますよね? でもこのコロナの影響もあって、ずいぶん変わってきた気がします。特に若い人たちの間では、小規模農業によるオーガニックな食べ物への関心が高まっています。彼らは今、大規模農業による農薬の濫用や遺伝子組み換え種の拡大で、地球が病んでいることを敏感に感じとっているんです。

明るい未来が見えないんですよ。どうやったら新鮮で美味しくて、栄養価の高い旬の食材の“Farm to Table”を実現できるか。当事者として真剣に考え始めた人が間違いなく増えています。私が教える和食の家庭料理が注目されるのも、こうした意識の変化が影響しているのかもしれません」

酒井さんの料理は、生産者との距離感がとても近い。

「地元の農家に蕎麦や黒豆、ミョウガなど日本の野菜を紹介すると、『そうやって食べるのか』なんて驚きながら、『じゃあうちの畑に植えてみよう』って協力してくれるんです。この10年で顔馴染みも増えて、お互いに学び合える良い関係が築けています」

ロサンゼルスの12月は柿のシーズン。酒井さんの干し柿のクラスは毎年大人気だ。「日本にいたら、干し柿なんて作ろうとも思わなかった」と笑うが、作り始めたきっかけは地元のファーマーズマーケットだったというから驚きだ。

「日本の柿の木を持っている農家が、とっても綺麗な干し柿を1つ10ドルくらいで売っていたんです。干し柿なんて日本でしか食べられないと思い込んでいたから、あぁこんなところに懐かしい日本があったって感動しちゃって。これはみんなに伝えていきたいなぁって思ったんです」

文=小竹貴子 構成=加藤紀子

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