新型コロナ変異種にもファイザー製ワクチンは効くのか?

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別の研究では、回復期患者の血漿に含まれる抗体にスパイク変異が及ぼす影響をマッピング分析した結果、E484の変異が、他のどの部位よりも抗体の中和作用(ウイルスを無力化させる作用)を阻害する力が大きいことがわかった。参加者によっては、E484関連の変異が抗体の有効性を10倍以上低下させた例もあった。

また、ブラジルでは、新型コロナウイルス感染症から回復した患者のうち、少なくともひとりの女性がE484K変異を含むウイルスに再感染し、最初の感染時より症状が悪化したという。

他にも複数の実験室実験または臨床症例研究において、回復期血漿の中和抗体にさらに深刻な影響を及ぼす自然発生的な変異が見つかっている。H69-V70の欠損もそのひとつかもしれない。これまでの研究のほとんどは受容体結合領域に重点を置いているが、他にもウイルスタンパク質の変異が抗体回避を可能にすることは明らかであり、より一層注目していかなければならない。

ワクチンの大規模接種を阻むのは、ウイルスの免疫回避力だけとはかぎらない。今後、何ヵ月あるいは何年にもわたって、世界中で感染が起こりつづけるかぎり、新型コロナウイルスはさらに強力に進化するだろう。

このウイルスは常に変異と実験を積み重ねているが、そのやり方は非常に不器用で、言わばやみくもな試行錯誤の繰り返しだ。ウイルスは知覚を持たない以上、いくら進化しても今のやり方を変えることはないだろう。だからと言って、手強くならないわけではない。そのつど生存に有利な変異を足がかりにして、最適化された最強のウイルスに変貌するかもしれない。

ヒトの防御機構をつき崩すべく繰り返される「実験と変異」


この脅威に立ち向かうには、ふたつの対策をとる必要がある。第一に、できるだけ多くの人にワクチンを打つことだ──それも可能な限り早く。今の米国のように、カタツムリが這うようなスピードでワクチン接種を進めていてはとうてい間に合わない。現に、新たな新型コロナ変異種がオハイオ州コロンバスで見つかったと、オハイオ大学の研究者から報告があったばかりだ。

ワクチンを打つのは感染症の予防のためだけではない。新型コロナウイルスが実験と変異を繰り返し、あの手この手で宿主の防御機構を突破しようとする機会を減らすためにも、接種が必要なのだ。新たな変異種が生じてしまえば、その特性は予測不可能だ。そのつど観察し、対処していくしかない。

第二に、現在も行われている新規変異種の調査とゲノム解析を大々的に推し進めることだ。生物圏全体を見通し、ゲノム全体を調べて、免疫調節に関わる変異を特定しなければならない。そして、季節性インフルエンザの場合と同様、環境に適応を続けるウイルスにワクチンを適応させていく覚悟が必要だ。

このパンデミックを乗り切るには、大局を見据え、より長期的な視点で考えていかなければならない。その視点が足りないばかりに、あまりに多くの命が失われた。これらの変異ウイルスで同じ過ちを犯すわけにはいかない。人類を守るために何をどうすればいいか、私たちにはもうわかっているのだから。


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翻訳・編集=大谷瑠璃子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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