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「駅のホームでは風船ガムを噛みながら歩いている」

こう語ったのは、障害者陸上(T11クラス=全盲)で2016年リオデジャネイロパラリンピックに出場した高田千明である。風船ガムを噛む理由が、最初私にはわからなかった。

「一番困るのがホームの点字ブロックの上に人が並んでいたり荷物が置いてあること。そのため、私はひとりで歩いている時には白杖を強めに叩いている。『自分はここを通りますよ』とまわりに知らせるためです。しかし、地面を叩く音が同じリズムになると、なかなか気づいてもらえない。そこで考えたのが、風船ガムをふくらませ、パチンと割って鳴らすこと。中には大きな音に驚かれる方もいますが、お互いケガをするよりは、その方がいいと思ってやっているんです」

かくいう私も、大きな音にハッとするひとりかもしれない。申し訳ない。


Photo by Andreas Dress on Unsplash

高田同様、2016年リオデジャネイロパラリンピックに出場した女子視覚障害者柔道の半谷静香は、身長156センチと小柄である。彼女によると、「男の人たちが操作しているスマホがちょうど私の眉間の位置になる」のだという。

「移動中に困るのは、駅で『歩きスマホ』をしている人たち。勢いよくぶつかってこられると、とても痛いんです。謝りもせず、そのまま無言で歩き出す人もいます」

だが、「そのくらいは、まだいい方」だと彼女。「中には『逆ギレ』する人もいる」というから始末に終えない。

「どこ見てんだ!と、怒鳴られることもしばしばです。私は怖くて、心の中で『どこも見てねェよ』て言い返すのが関の山です。ハハハ」

菅義偉首相は今夏に予定されている五輪・パラリンピックを「安心・安全な大会にしたい」としばしば口にする。新型コロナウイルス対策が念頭にあるようだが、障害者にとってのリスクはそれだけではない。仮にパラリンピックが開催されるのであれば、障害者の「安心・安全」にも万全を期してもらいたい。切にお願いする。


二宮清純(にのみやせいじゅん)◎スポーツジャーナリスト。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。1960年、愛媛県生まれ。五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。


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文=二宮清純 編集=宇藤智子

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