2011年から10年、新政「No.6」が描く日本酒の未来


ではこの「No.6」の登場が日本酒シーンをどう変えたのか、見ていきたい。

まず10年前、日本酒はまだまだマスキュランな酒だった。飲むのは居酒屋か鮨屋、和食店だったし、刺身や煮込み、焼き鳥などシブい酒肴と合わせるのが主流だった。

「肴はあぶったイカでいい」と八代亜紀が歌った1981年には、テレビで日本酒のCMに登場するのは漁師か、和装の男性だったけれど、その後30年経っても、日本酒をめぐる世の中はそれほど進化していなかったのだろうか。

それから10年経った2021年現在、日本酒はまず女子ウケのいいお酒になった。

マニアックな日本酒バーには女性の姿が目立ち、あわせる料理も和食に限らない。すっきりとフルーティな味わいは、ワインのように食中酒として楽しめるから、イタリアンやフレンチの高級店のメニューにSAKEというジャンルでオンリストされるようになった。

世界共通で視認できるような、わかりやすくてデザイン性の高いラベルのボトルが増えた。

フレッシュな生酒の価値が上がり、日本酒専用のセラーや、繊細な口当たりのグラスが開発された……もちろん、これらすべてを「No.6」がもたらしたとは言えないが、この10年で日本酒シーンを大きく変えたゲームチェンジャーであることは間違いないだろう。

「No.6」の10年を祝う


その「No.6」の誕生10周年を記念して、「新政酒造」では今年、6人のクリエイターとのコラボモデルをリリースする。その第一弾は、若者を中心に、海外からも評価が高いイラストレーター、ダイスケ・リチャードだ。

ギターを傍らに、大きなバックパックを背負う少女は、彼が描くおなじみのキャラクターだが、今回、その少女が漢字の「六」の上で心地よさそうに浮いている。


「No.6ダイスケリチャードtype」のリリースを祝って、2月27日(土)、28日(日)には渋谷PARCOでポップアップストアの開催が予定されている。

この限定モデルが2月に発表され、今後、書家(4月)、アートディレクター(6月)、漫画家(8月)、クリエイティブ・ディレクター(10月)、現代美術家(12月)との6度のコラボレーションが発表される2021年はまさに怒涛の「No.6」イヤーとなることだろう。

それにしても「No.6」の10年を思うとき、そのあざやかな飛躍ぶりが印象的である一方で、「3・11」の2011年にはじまり、いまこの「コロナ禍」における2021年を迎えていることになにか宿命のようなものを感じてしまう。

困難な時代を「No.6」とともに迎え、乗り切ろうとするのは心強くもあり、その躍進に励まされる思いだ。

「この10年間はひたすらに、理想の酒蔵のあり方、そして日本酒の姿を追い求めて走り続けてきた時期でした。

おかげで、当時思い描いていた自社圃場での無農薬酒米の栽培も実現し、こだわりの木桶は蔵を埋め尽くされるほどに増えました。でも、これからもやりたいことがたくさんあります。

現在、ちょうど木桶の工房の設立にも取り掛かっています。無農薬の自社圃場はさらに拡張する予定ですし、将来的にその付近には、よりコンセプチュアルな新しい酒蔵の建設、そしてオーベルジュや宿泊施設などを揃えた日本酒の桃源郷のようなものを表現できないかと考えています。

次の10年は日本酒がより華やかな存在になる、そんな未来を実現したいと願っています」

佐藤祐輔の眼はすでに次の10年をみつめている。近い将来、味わいに大きなリニューアルがある予定だというが、安住しない日本酒「No.6」からまだまだ目が離せない。

文=秋山 都

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