ビジネス

2021.01.18

コロナ禍の「痛み」を解決しV字回復。鍵は経営者の視点にあり

アソビュー 山野智久


「攻め」も「守り」も


同時に取り組んでいたのが、オンラインチケットシステムだ。ガイドラインにも含まれる、ソーシャルディスタンスを確保するための入場規制は、従来の紙のチケットでは管理しきれない。日時指定の事前予約制Eチケットのニーズが出てくるのは、レジャー施設の問題意識を理解していた山野にとって、自明のことだった。急ピッチで開発を進め、第1回目の緊急事態宣言が明けた、2020年6月初旬には機能をリリースした。

消費者が知りたいのは、感染防止の対策を行っている事業者だ。アソビューのサイト内で、ガイドラインに沿った対策をしている事業者が一目でわかる「バッジ」を表示した。そのほか、対策をしている施設だけを検索することもできる。

レジャー施設に、ガイドラインと併せて、それを実現する仕組みを提案したことが、アソビューの売り上げを伸ばした大きな要因だった。「業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも貢献したと言えるのではないか」(山野)

そして、打てる施策はどんどん打った。自治体と連携して、Go Toトラベルキャンペーンの支援対象から漏れたレジャー施設に使える、オリジナルクーポンを発行したほか、クラウドファンディング型「応援チケット」の販売、家の中で楽しめる体験キットの通販など、顧客ニーズを見極め、それをスピーディに実現していった。

とはいえ、コロナ禍の影響について、当初からこの混乱が2年は続くと見込んでいた山野は、固定費を見直す必要を迫られてもいた。そこでとった施策を仮屋薗は次のように評価する。「想像できない、文字通りウルトラCでした」(仮屋薗)

山野はアソビューに籍を残したままほかの会社に出向する「在籍出向」を行うことを発案した。

コロナ禍以前から、人材育成や福利厚生の一環として考えていたこの仕組みを、一時的な人件費の削減対策にも当てたのだ。2020年3月上旬に立ち上げ、同月末には運用ルールが決定、出向先の協力企業も決まっていった。同志のような起業家仲間たちなど、山野や経営メンバーが起業からの10年間で積み上げてきた信頼が生んだものだ。

山野はこの「攻め」と「守り」の施策について、こう振り返る。

「客足が途絶えるなかで、従業員やレジャー施設、消費者といった顧客の『ペイン』を解決する以外に考えることがなかった。『顧客起点』が大事というレベルではありません。それしか考えることがなかったんですよ」

「顧客起点」。ありふれた言葉こそ、危機からの脱出を生み、山野の味方となった。それに加え、「始まりがあれば、必ず終わりがある」、そう信じられる、前向きな姿勢が功を奏した。取材から数日後、山野はSNSにトラベルベンチャーの集いの写真をあげるとともにこう記していた。「我らの共通項は、光を信じて観続けていること」。それこそが大逆転を生むために最も必要なことかもしれない。


やまの・ともひさ◎1983年生まれ。新卒でリクルートに入社し、2011年にアソビューを創業。レジャー施設予約サイトを運営し、観光業界のDX推進に取り組む。観光庁のアドバイザリーボードを務めるほか、地方創生にも力を入れる。

文=揚原安紗佳 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

DX NOW

ForbesBrandVoice

人気記事