森を日常にする。コロナ後の世界に求められる「癒し」のローカルツーリズム

世界的に森林浴の効果が認められ、森で過ごす人が増えている。写真はグローバルな山伏の姿 =Yamabushido提供

HSP(Highly Sensitive Person)やMCS(Multiple Chemical Sensitivity)など、精神的にも肉体的にも刺激に対して非常に敏感で、繊細な気質をもって生まれた人が社会的に増え、マインドフルネスや体幹トレーニングなど様々な整えるプログラムが世界的に流行している。

自宅で気軽に出来るヨガや瞑想も人気だが、やはりコロナの巣ごもりでより一層自然回帰を求める人が増えていることもあり、グローバルウェルネス市場の最新の予測では4.7%の年間平均成長予測が12%に上方修正され、2027年までに120兆円に到達すると言われている。

今は難しいが、少しずつ世界が回復していけば、また人は必ず旅に出るだろう。しかし今後も世界のツーリズムの需要は、単なるレクリエーションや気分転換、たまの贅沢を目的としたものから、もっと普遍的に「健康な心と体で幸せに生きたい」という人間の根源的な欲求に即したものになっていくことは違いない。

年初めの世界各国の旅行業界予測を見比べると、健康増進や、未病の段階での自然治癒力・免疫力を高めるエコセラピーを目的とする旅、その中でも特にセルフケアやコミュニティケアのあり方に注目が集まっている。コロナという世界的な断絶を体験したいま、エコツーリズムにおいても、自分探しのようなひとり旅よりも、あえて人との関わりつながりを感じることによる「癒し」が求められているようだ。

自然の回復に貢献したり、旅先で誰かを喜ばせたりすることが自分の癒しにもなるという恩返しのような「癒し」のあり方は、今後のツーリズムのあらゆるサービスを変えていく可能性がある。「お客様は神様」ともてなすより、あえて参加者に汗をかいて奉仕してもらうような仕組みや、プライバシーという枠を取り払い、今までにないエコセラピックな発想で、人と人、人と自然がつながるようなホテルやサービスのあり方を描く必要もある。

すでに約10年前からこのような「つながり」をテーマとし、森の中で癒されるということを目的とした旅を提供してきたイノベーターが日本にいる。森でのリトリートプログラムを提供する専門企業「森へ」の創立者で、書籍「森のように生きる」の著書でもある山田博氏だ。

忙しい日常の中で物質的な満足を得ても、どこかで拭えない不安や心配を抱えた状態の人たちが山田氏と森で過ごし、癒されてきた。山田氏自身も大企業に在籍後、人材育成のコーチングのプロとして独立し活躍していた頃に、突然原因不明の体調不良に見舞われ、意識不明となって死の淵をさまよった。その時に自分が森の目に見えない力によって癒されたという実体験が、今の活動への礎となった。

衰退する地球環境と、わたしたちの健康のつながり


山田氏の提供するプログラムは森で過ごすことがメインだが、決して人里離れて隠遁するというようなものではない。少人数のグループで、森に入り、一人で過ごしたり、一緒に歩いたり焚き火の前で語らう。そんな誰かと一緒にしみじみと過ごす時間をシンプルに提供している。
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文=齋藤由佳子

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