森を日常にする。コロナ後の世界に求められる「癒し」のローカルツーリズム

世界的に森林浴の効果が認められ、森で過ごす人が増えている。写真はグローバルな山伏の姿 =Yamabushido提供


都会で不安を抱える個人のみならず、第一線で活躍する経営者やベンチャー企業などで活躍するビジネスパーソンらが、集中力を磨き生産性を高めるために参加するケースも多い。自然の中でその人の中に元々備わっていた五感で感じる能力を少しずつ取り戻すことで「なぜか安心した」「久しぶりにほっとする」と感じる人が多いという。

森で専門的な医療行為をするわけでもなく、特別凝った体験を用意するわけではないが、山田氏が人と自然を橋渡しするガイドとしてそっと寄り添うことで回復力を引き出しているように思う。

自然が持つ力をもっと活用すれば、たくさんの病気や疾患に立ち向かえる人間本来の生命力のようなものが活性化されていくように思うが、悲しいことに地球上の自然の力は衰え続けている。

国連環境計画(UNEP)の発表によると、土壌や森林など陸上生態系や海洋生態系の劣化により、世界32億人のウェルビーイングが低下し、世界のGDPの10%に相当する生態系サービスが損なわれているという。地球の生態系には人間も含まれるのだから、あらゆる影響を受けるのは私たち自身の心や体でもあるということだ。私たちがコロナから立ち上がり、より健康で整いたいのなら地球環境が損なわれていることは甚大なリスクだ。

いま注目されるエコセラピーとは、人と人だけでなく、環境や地球そのものと深いつながりを持つべきだという考えに基づいたアプローチのケアプログラムであり、特に「つながりを感じる」ということが最大の目的と言われている。人や地域、自然とのつながりを育むことができないと、幸福感やメンタルヘルスに悪影響を与えることは、生態心理学的には比較的新しい分野にも関わらず、多くの科学者が指摘している事実だ。

その中でも森が与える効果がメンタルにかなり良い影響を与えることがここ数年で証明されてきた。

日常的に「損なわれない」ライフケアを


「森へ」
山田博氏が森ではじめたプログラムには、経営者たちも参加する(写真提供:森へ)

エコセラピーのさらなる進化が求められるいま、10年以上前から山田氏が感じるままに森ではじめたプログラムは、時代をずっと先取りしていたように思う。そんなことからも、頭で考えてアクションをすることより、感じたことから形にしていくシンプルなパッションこそ新たな価値を生むのだと学ばされる。

そんな山田氏が今後挑戦したいことは「森を日常にする」ということだ。森にたまに行くのではなく、日常的に森に通うような新しいライフスタイルを描くことは、ツーリズムの世界でステイケーションが注目されていることも考えると、現実的なネクストステップになりそうだ。生活が乱れてから何とか「整える」のではなく、そもそも日常的に「損なわれない」ライフケアへ転換を図るというのは、コロナで生まれた新しい選択肢だ。

このような価値観はセルフメディケーションの時代と言われるいま、確実に高まってくると予想される。これからは自分自身で健康を管理し、日常的にケアを行うことが高齢化社会でますます膨れ上がる医療費の抑制にもなる。実際に日本人はOECD(経済協力開発機構)加盟国平均の年6~8回を大きく上回り、世界で最も医師にかかる回数が多い。ごく軽微な症状であっても、なんでも医者に診てもらい薬をもらうというのは、体にも社会的にもサステナブルとは言えない。

セルフメディケーションは国も行政も推奨しており、日本人の平均的な生涯の医療費が2300万円を超えると言われる中、日常的なエコセラピーやウェルネストラベルの領域に投資する人がさらに増えるだろう。
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文=齋藤由佳子

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