配信作品もオスカー候補に G・クルーニーの意欲作「ミッドナイト・スカイ」 

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実は初見で、この迫真の演技は、「レヴェナント: 蘇えりし者」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、2015年)でアカデミー主演男優賞に輝いたレオナルド・ディカプリオの姿に重なった。

「ミッドナイト・スカイ」のクレジットを見ると、脚本は「レヴェナント: 蘇えりし者」と同じマーク・L・スミス。ディカプリオにノミネート5回の末にようやく主演男優賞をもたらした脚本家を、製作者でもあるクルーニーが起用したのは想像に難くない。明らかに彼はこの作品でディカプリオと同じ主演男優賞を視野に入れている。

ジョージ・クルーニーは、過去、2度のアカデミー賞を受賞している。1つは「シリアナ」(スティーヴン・ギャガン監督、2005年)で助演男優賞、もう1つは「アルゴ」(ベン・アフレック監督、2012年)で製作者として作品賞。しかし、主演男優賞は、過去3度ノミネートされているが、受賞にはいまだ至っていない。クルーニーが「ミッドナイト・スカイ」で主演男優賞を狙っているという推測もあながち的外れではないだろう。

硬派な作品が多いクルーニー監督作


「ミッドナイト・スカイ」では、クルーニーは自らメガホンもとっているが、彼の監督歴は、意外に長い。2002年の「コンフェッション」で、途中降板したブライアン・シンガーに代わって初めて監督を務めるが、テレビ界とCIAの繋がりを描いたこの作品は高く評価された。

その後も、2005年の「グッドナイト&グッドラック」では、1950年代「赤狩り」の時代を舞台に真実の報道を問うて、アカデミー賞の監督賞や脚本賞などにノミネートされる。

他にも、大統領予備選挙をテーマにした「スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜」(2011年)、ヒトラーによって奪われた美術品の奪還作戦を描いた「ミケランジェロ・プロジェクト」(2014年)など、クルーニーの監督作品は社会に視線を向けた硬派な作品が多く、評価は高いが、必ずしも広く一般受けしたものではない。

今回の「ミッドナイト・スカイ」も近未来と宇宙を描いたSF作品でありながら、エンタテインメント志向ではない。宇宙船での船外活動のシーンなどは、クルーニーも出演した「ゼロ・グラビティ」(アルフォンソ・キュアロン監督、2013年)を彷彿とさせるものがあるが、物語の主軸となっていくのは、滅びゆく地球と帰る場所がなくなった宇宙船の運命であり、そこにはかなりのメッセージ性も盛り込まれている。

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原作はリリー・ブルックス=ダルトンのディストピア小説「世界の終わりの天文台」で、映画には、コロナ禍にあっては、いろいろとインスパイアされる内容も盛り込まれている。興行成績に左右されることのないネットフリックス作品ならでは、作家性を重視した高いクオリティも感じさせる。

老科学者とともに天文台に取り残された少女の存在をどのように捉えるかは、いろいろと議論を生むものではあるが、それが最後の結末にもつながる重要な鍵ともなっている展開などは、なかなか入念に練られた作品だと言ってもいい。

死期を悟った主人公の老科学者の呟くセリフのなかで強く心に響いた言葉が1つある。それは、地球へと近づき褐色に変わり果てたその姿を宇宙船クルーが目撃した直後に、交信が復活して、彼らに向かって語られたものだ。

「君らの留守中に、地球を守れなかった」

このオーガスティンが語りかける悔恨と謝罪の言葉には、全世界をコロナ禍が襲ういま、強く心に突き刺さるものを感じた。「ミッドナイト・スカイ」がいろいろと考えさせられるメッセージを孕んだ作品であることはこのセリフからも確かだ。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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