なぜ、メルクマール代表取締役の志賀洋公はアジア展開が決まった好調のタイミングに売却を決意したのか。受け継がれるものと新たな展開に迫った。
「創業当時から10年を節目にしたいと考えていました。アジア総代理店契約を獲得し、好業績での売却は結果論です」
そう語るのは、メルクマール代表の志賀洋公だ。主力商品EcoSmart Fireは、植物原料のバイオエタノールを燃焼させる暖炉。暖房能力はもちろん、炎の美しさを生かすための洗練されたデザインが魅力だ。志賀は以前勤めていた会社がEcoSmart Fireの輸入元になっていたことでこのブランドを知る。退職のタイミングでこの商品の輸入販売を行う総代理店を立ち上げ、100台以下だった日本での 販売台数を10年間で3,000〜4,000台にまで引き上げ、五つ星ホテルにも納入。アジア総代理店契約にまで至ったなかでの売却は、あくまでも戦略なのだという。
メルクマール代表取締役 志賀洋公
「M&Aは、さらに企業を成長させるための選択肢のひとつ。M&Aをすると決めたときにいくつか声を掛けたいと思っていたなかの一人が赤坂さんでした」(志賀)
志賀の戦略と企業成長のビジョンを実現する相手として白羽の矢が立ったのが、frankyの代表、赤坂優だ。
赤坂は国内最大級の恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」を開発・運営するエウレカの共同創 業者。その後、NASDAQ上場企業の米国Match Groupに同社を売却した後、ストリートファッションブランド「WIND AND SEA」を日本および海外で展開中。2020年からは新たに設立したfrankyにてステイホーム時代の“おうち時間”の豊かなすごし方をテーマに、複数の事業開発に取り組んでいる。
franky代表取締役CEO 赤坂 優
30代の同世代の2人の出会いはビジネスではない。もともと赤坂は、友人宅のEcoSmart Fireが醸し出す炎独特の魅力に一目ぼれし、すぐに購入した大ファン。ユーザーとして、自宅で受けた取材に志賀が立ち会ったのが出会いだった。
「『暖炉』というよりは『炎を使ったインテリア』として商品を見ましたね。そうとらえた瞬間に唯一無二の存在になった。しかも、EcoSmart Fireはデザインとしてもシンプルで美しい」(赤坂)
志賀にとって赤坂はインテリア好きで、何よりもEcoSmart Fireの魅力と潜在能力を理解し、愛着をもつ存在。加えて、起業、M&A、エンジェル投資などのキャリアを併せもつ。ビジネスを託す、これ以上ないベストパーソンだったのだ。
「エウレカでの成功に加えて、アパレルブランドでも大きな結果を出している。異業種でも赤坂さんならできるという証明があったので、ぜひお声をかけてみたいと思いました」(志賀)
志賀の申し出に赤坂が応える形で、M&Aに向けたディスカッションをスタート。それまでは会食などをともにするフランクな間柄だったが、初めて真剣に経営を軸に語り合った。そこで二人はお互いのビジネスセンスについて、認識を新たにする。
徹底したブランディングの追求
「大きな会社の売却経験があるので俯瞰する印象がありましたが、現実的なところまで追求されることに驚きました」(志賀)「志賀さんが、ご自身の情熱を最大限に注いでブランディングに10年間取り組んできたからこそ、EcoSmart Fireとしての実績がついてきたのだと感じました。特に、高級ホテルに商品を導入いただくということは、企業規模を踏まえて考えると難度が高かったはずです」(赤坂)
志賀が目指したものは、もともとのブランディングを堅持しながら、日本国内においてもう少しハイエンドになるようなバリューアップ。カタログ、プライシング、ウェブサイト、ショールームの内装まで一貫性を持たせ、かつハイエンドのユーザーが好むようなデザインを徹底した。
「いろんなテイストに合わせられるところが強みです。でも、バイオエタノール燃料の暖炉という国内では認知されていないカテゴリー。どういうところに設置して、どんなふうに使うのか、イメージしにくい。具体的空間をイメージさせるようなショールームのつくり方やビジュアルの部分はすごく心がけましたね」(志賀)
「私のバックグラウンドはITです。『リアルな店舗での販売は利益効率が厳しいから、オンラインのみで販売しよう』という考え方がベースの領域でやってきました。Amazonなどのプラットフォームビジネスが伸びた理由もそこにある。しかし、『あえてブランドの世界観を体験できる空間として店舗やその立地にコストをかけるからこそ、得られる価値があるんだ』ということを志賀さんから教わりましたね」(赤坂)
家賃の高い南青山にショールームを構えることは、利益効率が合うかどうかわからない世界。しかし、その先にあるもの、自分が目指すものをきちんと見据える。そこに重きを置くことは二人の共通点だ。
「合理性や直接的な利益効率など、数値的に判断できることばかり追求したら、新しい価値や世界を生み出せない。なので、そういった点を意識的に大切にしていきたいと考えています」(赤坂)
これが志賀との関係で確信できたことであり、また、「デザイン性・機能性・サステナビリティを兼ね備えたプロダクトで日常の新たな豊かさを提案する」というfrankyの事業コンセプトと合致するところ。ビジネスの採算性だけではなく、美しさや豊さといった目に見えない価値を追求し結果を出す。この二人のビジョンがM&Aによってさらに飛躍しようとしているのだ。
商品がもつ事業的価値はもちろん、志賀が作り上げてきた「ブランドの世界観と商品へのプライド」、そして「シンプルな美しさをかたちにするクリエイティビティ」は守り、継承していくべき大きな価値だと赤坂は言う。
EcoSmart Fireは、植物原料のバイオエタノールを燃焼させる暖炉で、煙や煤を排出しないため、煙突はもちろん、換気設備などは一切不要。マンションでも使用できる。写真:アマン東京
その一方、自らがもつIT分野における強みを生かし、各種ツールの導入やオペレーションフローの最適化を行うことで、競合他社やほかのインテリアメーカーにはない施策を打つチャンスを見いだしている。「高価格帯の商品がオンラインショップでどんどん売れていったらすごいですよね。それをどう実現していくかが腕の見せどころでもあると考えています」(赤坂)
今後はアジアでの販売にも着手していく。「日本市場とアジア市場の両方でそれぞれグロースさせていく。この10年間、志賀さんが尽力し、商品認知や普及はある程度とれた。ここからは次のフェーズに入っていくと考えています。ブランド自体のバリューアップに加えて、価格帯や新たな商品の開発など、模索できるポイントがたくさんあります。EcoSmart Fireの伸びしろはまだまだあります」(赤坂)
「日本国内のマーケットの潮流や傾向も日々変化するので、それに合わせて柔軟に動いていくのが企業としてあるべき姿。アジア圏への販売も一緒くたにするのではなく、それぞれの文化やテイストに合わせた価格帯、売り方などが必要です。大変ですが、やりながら試行錯誤ですね」(志賀)
M&Aによって渡されるバトン。志賀がこの10年でつくり上げてきたブランドの世界に、赤坂が新たな風を吹き込む。今後の展開が非常に楽しみである。
バイオエタノール暖炉EcoSmart Fireはサトウキビ等の植物原料を蒸留加工したバイオエタノールを燃料とした暖炉です。バイオエタノールの燃焼による綺麗なオレンジ色の炎は、高い暖房能力は勿論、インテリアとしても空間を彩ります。
また、煙や煤を排出しない為、煙突などの排煙設備を一切必要とせず、マンションでもご使用いただける他、その高い安全性から数多くの商業施設、有名ホテルでも採用されております。
https://ecosmartfire.mmlproducts.com
志賀 洋公(しが・ひろまさ)◎メルクマール代表取締役。2011年創業。輸入インテリア用品の国内での販売と、それに付随する設計・施工事業を展開。主力商品EcoSmart Fireをヒットさせる。創業10年を節目に自身が保有する株式100%を赤坂優率いるfrankyへ売却した。
赤坂 優(あかさか・ゆう)◎franky代表取締役CEO。2008年、エウレカを設立し、代表取締役CEOに就任。国内最大級の恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」を手がける。2015年、NASDAQ上場企業の米国Match Groupに同社の発行済全株式を売却。その後frankyを設立し、2020年よりステイホーム時代の“おうち時間”の豊かなすごし方テーマに複数の事業を展開中。