暴動では結局5人が死亡したのだが、トランプ陣営などが煽ってきた不正選挙という主張が、結果的に人命が失われる事態に発展したと言っても過言ではないだろう。
ただ今回の暴動はその前から、予想がつくものだった。
大統領選前から警戒 襲撃は予想できたのに
筆者は大統領選前後に取材のためにワシントンDCに滞在していたが、大統領選の投票日もトランプが劣勢になれば暴動が起きるのではないかと、かなり警戒されていた。
ホワイトハウス周辺のビルはほとんどがガラス窓に板を取り付けて補強し、破壊されないように対処していた。おかげで、ワシントンDCの中心部はどこに行ってもビルの木の板で覆われているという異様な風景だった。
またホワイトハウス周辺には追加でフェンスが設置され、警察などの数も増え、誰も下手に近づけない。そして選挙当日や、ジョー・バイデン候補の当確が出た日などは、武装した警察たちがホワイトハウス周辺を取り囲んで集まる人たちに目を光らせていた。
今回暴動が起きた1月6日は議会で選挙人投票を確定する日であり、昨年12月8日に選挙人投票が確定した後から年末にかけて、トランプ支持者らによる大規模なデモが行われると報じられていた。にもかかわらず食い止められなかった背景について、腑に落ちない点もある。
トランプ自身も、いまでは凍結されてしまったツイッターで、12月19日には「1月6日、ワシントンDCででかいデモが。ワイルドになるからぜひ参加を」と、1月1日には「1月6日午前11時、ワシントンDCで大規模な抗議集会が開かれる」とツイートしてイベントを煽っていた。そして当日、トランプや、トランプの顧問弁護士であるルディ・ジュリアーニ氏などもスピーチを行なっており、参加者らのテンションが上がるのも想像付いた。
さらに議会に突入する計画も情報交換がオンラインで行われていたことが分かっている。議事堂への襲撃には、元軍人や地方の元政治家、過激思想のネオナチや陰謀論集団のQアノンなどの活動家らが関与しており、結束バンドなどを準備するなど計画的だったことも示唆されている(ちなみに16、17日にも連邦施設の襲撃を予定していた)。
当然ながら、連邦議会からそう遠くない場所に本部を構えるFBI(連邦捜査局)もそうした動向はきっちりと把握していたという。つまりトランプの選挙不正発言に便乗して政府への「テロ」を狙った人たちが現れることを、当然ながらわかっていた。
事実、当日に支持者らが議会周辺で不穏な動きをするなか、司法省は米議会警察にFBIを出そうかと提案したが、結局は警備に加わっていない。米議会警察は、2000人以上の武装部隊と4600万ドル以上の予算をもつ組織だが、それでも不十分とFBIは見ていたのである。
国防総省も武装した州兵を動員できると事前に米議会警察に伝えてはいた。結果的には米議会警察や議事堂の警備局長などが辞職に追い込まれた。歴史に残る大失態を犯したとして記憶されるだろう。