──これまでのインフルエンサーには何が求められていたと思いますか。
渡辺:今まで、視聴者たちはインフルエンサーに対して、特に何も求めてこなかったと思います。私は芸人としてデビューし、テレビに出演しながらSNSも活用してきました。私の場合、商品紹介は一切していません。視聴者たちも「渡辺直美のプライベート」を知りたくて、私のアカウントを覗いているのでしょう。
稲木:やっぱり渡辺さんは、人と真逆のことをやる人間ですね。ユーチューブで流行っているようなコンテンツはやりません。一般的にインフルエンサーと言えば、商品を売ることからスタートすると思いますが、コロナ禍で渡辺さんのように、誰かを励ます形で人をインフルエンスするのは、友達としても誇りに思います。
従来の発信には「違和感」も 影響力を社会に還元する動き
──インフルエンサーとして意識していたことは何でしょうか。またコロナ禍にどんな変化を感じていますか。
渡辺:前から気をつけていたことでもありますが、この大変な時期にフェイクニュースは絶対流さないということです。災害が起きた時など、もちろん一刻も早く助けになるべく行動したいです。しかし、間違えたことは発信できません。
今回コロナ禍で、感染者数以外にも、Black Lives Matterなど、深刻なイシューがSNS上でも注目されていました。そんな中でも、頑なに商品を紹介してる人を見て、正直、違和感を感じました。
稲木さんが説明してくれた通り、インフルエンサーたちが商品を紹介すること自体は、決して悪いことではありません。時代の最先端を誰よりもいち早く見つけることができます。しかし、コロナショックは、普段感じられなかった違和感を、より感じる時代になったと見ています。だからこそ、いかに自分の行動について考えを素直に伝えられるか、よりパーソナル部分を出していった子たちが勝っていくんじゃないかな、と私は思いました。
稲木:僕が一目置いているインフルエンサーは、キアラ・フェラーニです。彼女はイタリアのインフルエンサー兼デジタル起業家。2020年3月にミュージシャンとして活躍する夫と、10万ユーロ(約1180万円)を寄付しました。イタリアが辛い時期にいる時、自分の影響力を形にして、社会に還元したのです。
今後は「お金が欲しい」や「◯◯を買いたい」など、利益を得るだけじゃなく何か社会的に返したいという人たちが浮き彫りになっていくのではないかなと思いました。ただし、ゴールは人それぞれ。お金儲けを一番の目標に決めたなら、それはそれで良いと思うので、別に正解はありません。
渡辺:キアラはきっと、感謝の気持ちでそのような行動に至ったと思います。今までたくさんの人に支えられたからこそ、何年もこの世界で活躍できている。彼女の「本当にありがとう、一緒に乗り越えていこう、支えていくよ」という感謝の気持ちと責任感が、すごくよくわかりました。
私自身、立ちはだかる壁を「どう乗り越えるのがかっこいいか」というより、「この壁をどうやって自分で乗り越えて、さらに周りの人たちを、支え助け合えられるか」だけを考え、最終的に動画配信という形で乗り越えられました。
コロナ禍では、「この人の乗り越え方のセンス、すごくない?」と、壁を乗り越えた人が後に賞賛され注目を浴びることが、多かったと思います。
世界中でインフルエンサーたちは、これまでにぶつかったことのなかった壁を乗り越えようと試行錯誤していた。後編では、アフターコロナのインフルエンサーの未来について、2人が語る。