「寿退社」はいまや死語。言霊と流行語を考える


「女性活用」は二重の意味で問題だと思う。

そもそも長い人類の歴史のなかで、女性はまるで活用されなかったかのように感じさせる。古今東西、男性上位時代が長く、女性は社会全体のヒエラルヒーで下位に置かれていたことは間違いない。現代でもなお女性差別が存在することは残念ながら事実である。これらは早急に改めなければならない。しかし、差別と活用しないこととは別物である。

歴史上、女性君主は相当数存在したし、実業や芸術文化の世界で活躍した女性もかなりいる。それゆえ、女性を「活用」しようという発想そのものに、男たちの「上から目線」を感じてしまう。

ここで問題なのが、女性が担ってきた家事労働の重要性を認めない態度である。

育児や家事の大変さは経験して初めてわかる。伝統的な主婦の仕事は、それこそ24時間、決まった休み時間などない重労働だ。それなのに、金銭的評価はほとんどゼロ。専業主婦は、外で仕事をもつ女性より価値が低いとすらいわれかねない時代のムードである。

家庭の仕事は、家族経営という難儀なマネジメントだ。それをまるで無価値のごとく扱うことは、それこそ連綿と人類を支えてきた女性たちへの冒涜(ぼうとく)だと思う。ワークアンドライフ・バランスで家族の時間を尊重するというなら、女性活用ではなく男性活用というべきだ。

日本は昔から言霊の国といわれてきたが、はやり言葉は、はやるから口端にのぼるとは限らない。波及力の強い発信源が、意図的に流布させることもある。その言葉が言霊を発するとき、人心は混乱しかねない。情報の受け手としては、返す返すも用心深く構えたいものだ。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。日本証券業協会特別顧問、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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