──オリジナル作品も、より視聴者に楽しんでもらえるところを戦略的に狙えるということですね。アニメ制作会社や人気クリエイターとのタッグにはどんな意図があるのでしょうか?
オリジナル作品を製作するにあたり、一番の悩みは「どうやっていい制作チームを常に確保するか」でした。
いい制作チームには、腕が立つ制作会社やクリエイターが必要不可欠です。だけど、優秀なところほど多忙で、3〜4年先まで制作スケジュールがびっしりと埋まってしまっている。しかも、通常のアニメ制作チームは1作品が終わるとすぐに解散してしまい、いざ次の作品を作ろうとなっても、すぐに同じチームを集めることは難しい。高いクオリティのオリジナル作品を常に出し続けたい僕たちにとっては、クリエイター不足が最大のネックでした。
アニメのオリジナル企画・制作におけるパートナーシップをCLAMP、樹林 伸氏、太田垣 康男氏、乙一氏、冲方 丁氏、ヤマザキマリ氏と組むことを発表(2020年2月)
一流の制作会社やクリエイターがネットフリックスとの仕事を優先し、かつそのチームを解散させないようにするにはどうしたらいいか。そこで思いついたのが、「複数年かけて複数作品を一緒に作る」というパートナーシップ関係を構築することでした。
制作する作品が絶え間なく続けば、チームは解散せずに済む。制作会社やクリエイター側は予算が約束された状態でスケジュールを埋めることができ、ネットフリックス側もいいスタッフを優先的に確保できる。つまり、ネットフリックスが原作権を持つ作品を増やすことができる。そんなWIN-WINの関係性ができるのではないかと考えたんです。
会社はこのパートナーシップ提案に対して「いいよ、やってみて」とすぐにGOサインを出してくれたのですが、その1週間後には「そういえば、あの話できた?」と詰められました(笑)。それくらいのスピード感で、僕自身が親交のある制作会社と直接交渉したわけです。
日本のアニメ業界では、外部の人間、特に我々のような外資系の会社はものすごく警戒される。制作側は自分たちが気に入らない作品を無理やり作らせられるのではないかと心配しているんです。彼らは生粋のクリエイター気質だから、自分たちが心から気に入ったものを作りたいという気持ちが非常に強い。
パートナーシップを結ぶ際は、こちらが提案したものを制作側が断る権利を保証しました。お互いに納得したものを作るのが一番だと僕も思っています。業界でも権威のあるアニメスタジオと業務提携をすることは、業界に対して、ネットフリックスの信頼性をアピールすることにもなり、どんどん規模を拡大させることができました。
──ネットフリックスでのアニメ製作プロセスは、他とはどんなところが違うのでしょうか?
クオリティを優先してスケジュールや予算を「後から」でも決めることができる、さまざまな点で制約が少ないことではないでしょうか。
日本のアニメ業界が「ブラック」と言われがちなのは、そもそも制作スケジュールに無理がある場合が多いからなんですよね。TVシリーズや映画は、公開や編成の枠があらかじめ決まっていて、その逆算で制作を進めなければいけないから。