困難に立ち向かう、偉大なる女性への讃歌

Forbes JAPAN本誌で連載中の『美酒のある風景』。今回は1月号(11月25日発売)より、「ヴーヴ・クリコ ラ・グランダム 2012×YAYOI KUSAMA」をご紹介。ピノ・ノワール主体であり、洗練されたフィネス、長い余韻、奥行が感じられる味わいが印象的な1本だ。


飲食、そしてホテルなどのサービス業界にあって2020年ほどの大きな困難に立ち向かった年があっただろうか。地震や台風などの災禍はあったが、それは多く局地的かつ一時的なものであり、人々は都度タフに復興の旗を掲げてきた。しかし今年は……出口の見えないトンネルの中を手探りで進んでいるような気分だ。

そんななかで明るいニュースは2020年9月「ヴーヴ・クリコ ラ・グランダム 2012」と現代アーティストの草間彌生がコラボしたギフトボックス入り限定商品が、オンラストアで“5分で売り切れた”というもの。限定販売した都内百貨店でも、事前予約制だったにもかかわらず、多くの人が一縷の望みをかけて長蛇の列を成した。

なぜこのシャンパーニュがこれほどの人気を博したのか。それは、人々がこのボトルに希望をみたからではないだろうか。

そもそも「ヴーヴ・クリコ ラ・グランダム」とは、ヴーヴ・クリコを世界屈指のシャンパーニュ・メゾンへと育てあげたマダム・クリコへ捧げられたオマージュ。画期的なイノベーションを実現させ、当時はまだ数少なかった女性起業家となったマダム・クリコは仏シャンパーニュ地方で“ラ・グランダム(偉大なる女性)”と讃えられていたというが、19世紀のフランスにあって、女性がメゾンを率いることの困難はいかばかりであったか、想像に難くない。

一方で、草間彌生も若くして単身、米国へわたり、画家・彫刻家・パフォーマンスアーティスト等として多彩な表現活動を行ってきた、アート界のまさに“ラ・グランダム”。彼女のシンボルともいえるドットがあしらわれた「ヴーヴ・クリコ ラ・グランダム 2012×YAYOI KUSAMA」とは、マダム・クリコと草間彌生とが時空間を超えて手を携えた1本ともいえるのだ。

その「ヴーヴ・クリコ ラ・グランダム 2012 ×YAYOI KUSAMA」が味わえるのは、10月にオープンしたホテル「東京エディション虎ノ門」のレストラン「The Blue Room」だ。ヘッドソムリエの矢田部匡且は語る。「ピノ・ノワール主体であり、洗練されたフィネス、長い余韻、奥行きが感じられる味わいが印象的です。12年は突出したヴィンテージですから、今後の熟成も多いに期待できるのではないでしょうか」

東京タワーを間近に望むダイニングで、この黄金色の一杯を傾けるとき、静かな闘志がふつふつと湧いてきた。偉大なる女性のパワーが宿ったのかもしれない。

Veuve Clicquot La Grande Dame 2012 × YAYOI KUSAMA

容量罫線|750ml
品種|ピノ・ノワール、シャルドネ
価格|35000円(The Blue Room でのオーダー価格)
問い合わせ|MHD モエ ヘネシー ディアジオ
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photographs by Yuji Kanno | text and edit by Miyako Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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