「ポジティビズム」の時代


真の「ポジティビズム」とは、人生で起こる出来事のすべてに「ポジティブな意味」があることを信じることである。そして、すべての出来事を糧として、しなやかに成長し、成熟していくことである。

すなわち、それがいかにネガティブに見える出来事であろうとも、その出来事は、我々が大切な何かを学ぶために与えられた天の配剤であることを信じ、その学びに正対して取り組む心の姿勢を、真の「ポジティビズム」と呼ぶのであろう。

先ほどのサッカーの試合に喩えるならば、もしベストを尽くして戦ってなお、敗北するという結果になったとしても、その敗北は、プレイヤーとして、チームとして、さらに成長していくために与えられた配剤であると受け止め、次の試合での勝利を目指し、その成長を実現していくことであろう。

そして、この「ポジティビズム」とは、我々個人の生き方において問われているだけではない。それは、人類の歩み方においても、深く問われている。

地球温暖化、大規模災害、パンデミック、貧富の差の拡大、テロの頻発、人種差別など、人類の現状は「ネガティブに見える出来事」に溢れている。

こうした時代だからこそ、我々は、それらの出来事から、未来に向けての教訓を深く学び、人類の歩み方を大きく変えていかなければならない。

このアタリ氏との対話の最後に、その教訓の最も大切なものについて、明確な意見の一致を見た。

それは、「資本主義の変革」である。

地球環境の危機も、パンデミックの危機も、世界経済危機も、その根底には、現在のグローバル資本主義が内包する、深い矛盾と構造的問題がある。

いま、世界中で「持続可能資本主義」や「公益資本主義」などの考え方が広がっているが、この時期に、我々は「新たな資本主義」のビジョンを描き、その変革を実現していかなければならない。

もとより、それは、決して容易なことではないが、必ず、その変革を実現することはできる。

それを信じることが、まさに、いま、我々に求められている「ポジティビズム」であろう。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Agenda Council元メンバー。全国6300名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『運気を磨く』『直観を磨く』『知性を磨く』など90冊余。

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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