そこからはブレなかった。まず社員が柔軟に働けるように人事制度を改革。会社の理念とズレていなければ、社員が望むことは可能な限り制度化した。残業なしや時短はあたりまえ。「外回りの空き時間に飲むコーヒー代を出してほしい」という営業の要望も却下せずに認めたほどだ。
一人ひとりのわがままを許せば、むしろチームは機能しなくなるのではないか。そんな疑問を投げると、「わがままのぶつけあいが真のチームワークにつながる」と返ってきた。
例に挙げるのは「イヤホン事件」だ。ある年の新人研修で、新入社員がイヤホンで音楽を聴きながら作業をしていた。先輩社員が注意したところ、「何がいけないのか」と反発。グループウェア上で激論が始まり、他の社員も巻き込んで全社的な議論へと発展した。
「その様子を見て、しめたと思いました。異なる大きさや形の石で石垣を組もうとすれば、ガツガツぶつかります。でも、ぶつかって形を変えたり組み替えたりしながらハマったときに、石垣はもっとも強固になる」
こうした考え方は、製品にも色濃く反映されている。19年12月期は、売上高・営業利益とも過去最高になった。サイボウズ製品への支持が広がっているのは、製品に通底する同社の思想に共感する企業が増えてきたからに他ならない。
チームワークのいい組織を増やす手段は、ソフトウェア製品にかぎらない。サイボウズは17年11月、新しい組織のメソッドを提供する研修・コンサル事業「サイボウズチームワーク総研」をスタートさせた。将来はソフトウェア事業との両輪でミッションを実現していく考えだ。
新事業は将来どのくらいの規模を目指すのか。そう尋ねると、「規模は興味がない。成功の指標はそこじゃないので」とキッパリ。青野が見ているのは、あくまでも自分軸だ。
あおの・よしひさ◎1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、97年にサイボウズを設立。2005年4月より現職。社内のワークスタイル変革を推進し、自身も3度の育児休暇を取得した。