触覚は見逃されがちな感覚だが、触れる行為が不足すると早産児の生存率が下がり、孤児保護施設の子どもの間では精神・感情の発育不良につながることが複数の研究から示されてきた。人との交流が少ない人にとって、触れる機会の減少は生活の質に影響する恐れがある。
新型コロナウイルス対策で対人距離を確保する上で、ネットを介した交流はある程度支えとなったものの、人と人との触れ合いがなくなったことで、多くの人は握手やハグなどを恋しく思うようになった。そしてこのたび発表された新たな研究結果からは、多くの人がペットとの触れ合いに安らぎを得ていることが分かった。
南オーストラリア大学の研究チームが発表したこの研究結果では、ペットが2020年に人々の命を救ってきたことや、組織がペットに注目すべき理由が示された。
研究チームが32人を対象に聞き取り調査を行った結果、新型コロナウイルスの流行で人同士の交流が制限されている中、飼い主とペットのような人間と動物との触れ合いが健康と幸福感に貢献している可能性があることが分かった。
回答者の90%以上は、ペットに触ることで慰められ、安らぎを得られたと述べている。また、ペットの側もこうした触れ合いを欲しているそぶりを見せたという。回答者らは、ストレスを感じたり悲しい気分になったり、精神的ショックを感じたりしているときに、飼っている犬や猫がこちらに触れてくることがあったと語った。
回答者の多くは、ペットには飼い主が落ち込んでいることを察知し、近くに寄り添いたいと感じる能力が備わっていると説明。その例は犬や猫にとどまらず、鳥や羊、馬、さらには爬虫(はちゅう)類さえもが人との触れ合いに応じるとされた。
研究を率いたジャネット・ヤング博士によると、新型コロナウイルスが流行するまで、物理的な触れ合いの大切さに気付かない人は多かった。「人間同士の接触が大きく制限され、触れ合う機会が奪われた中で、生活の質に対する健康面での影響は非常に大きかった」とヤング博士。「孤独の空白を埋め、ストレスから身を守るため、ロックダウン中に保護施設から犬や猫を引き取る人が世界各地で増えた。ブリーダーも子犬の需要に圧倒され、順番待ちリストが4倍になったところもある」とヤング博士は語る。
「触覚は研究が進んでいない感覚だが、触ることが成長や発育、健康に欠かせず、体内のストレスホルモンであるコルチゾールを減少させる効果があることを示す証拠がある。また他の感覚が衰退する高齢者にとっては、触れることが特に重要だとも考えられている」(ヤング博士)