戦略がパッとしなくなると、迷ったリーダーは「どこへ向かおうか」という話ばかりをしがちになりますが、本来リーダーがすべきは、何を捨てるかを決めること。「北へ行く」ということは「南にも西にも東にも行かない」、それをはっきりと決めるのです。
あらゆる経済活動は資源制約の中で行われている、いわばトレードオフです。資金、人材、その他限られた資源の中で何をするかという裏側には、必ず「何をしないか」という意思決定が必要です。
ユニクロが進んだ「違う道」
そうした優れた戦略により成功している企業は多くありますが、今回は身近な例を2つ挙げてみます。1社は丸亀製麺(トリドール)、もう1つはユニクロ(ファーストリテイリング)です。
うどん業界というのは参入障壁が低く、競争相手が多い厳しい業界です。その中でなぜ丸亀製麺の業績が抜群にいいのか。外から見れば「おいしいから」ということにつきますが、そのおいしさの裏は戦略があります。
丸亀製麺は、「セントラルキッチンを使わない」と決めているのです。本来うどんは、冷凍にも適しているため、原価を落とすには工場生産し、全国出荷するほうが合理的。同業他社がその方針をとっているにもかかわらず、丸亀製麺は各店舗で一から麺を打ち、茹でて提供する。その結果として、おいしいうどんがある。好調の裏にあるのは、「頑張っておいしいうどんをつくろう」という意思決定ではないのです。
今や世界第3位のアパレル企業になったユニクロは、グローバル競争においては後発でした。ZARAを擁するインディテックスやH&Mが先行し、彼らが“ファストファッション”で世界を席巻するなか、ユニクロはどのような戦略をとったか。それが“ライフウェア”です。
ファッションで個性を発揮しない。服や小物をライフの部品として、自由に組み合わせてもらう。しかも部品は、機能や効果を伴うものとして、毎年アップデートされるため、買い替え需要が生まれる。長く成熟した歴史があるファッション業界において、これまでにない、全く異なるコンセプトを打ち出したのです。
トレンドだったファストファッションでなく、GAPのようなカジュアルウェアでもない。ライフウェアという提案で世界的なポジションを取っているユニクロは、おそらくインディテックスを抜き、日本初の消費財グローバルNo.1企業になるでしょう。
ブームやトレンドというのは、多くの人が「良い」と思っているからそうなっているわけで、もちろん悪いことではありません。しかしそれに乗るということは、その線上において「ベター」を目指すことになり、戦略的な違いをつくりにくくなる。ユニクロもファストファストファッションに舵を切っていたら、今の地位はなかったはず。そういう意味でトレンドは戦略的意思決定の「敵」と言えます。