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2021.01.08

同じ物差しに乗るのをやめる。楠木建に聞く「優れた戦略」のつくり方

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「御社は他社とどんな違いがありますか?」と聞いたときに、ベターの話をする経営者は戦略がないに等しい。「うちは〇〇をしない」と言えるかどうか、これは優れた経営者を見分けるリトマスチェッカーです。

ここまでお話した戦略的な意思決定の本質として、「どちらいいか?」と考えてしまう人が戦略をつくるのは難しいと言えます。良いと悪いがあれば、誰でも良いほうを選びます。大事なのは、良いことと良いことの間で、客観的な物差しでなく、自分の意思で選べるかどうか。

また、そのときの判断の良し悪しは、結果としてわかることです。例えば、短期的であれ、トレンドに乗れば成功するかといえば、そんな法則はありません。法則というのは、「E=mc2」のように、いつどこで誰がどうしても変化しないものですが、そんな風に同じ結果が出るのなら経営は不要になります。



人は弱いほど法則を求めるものです。〇〇ハックのようなものに惹かれやすい人は、経営に向いていない。何を聞いても「一理あるね」という人もいますが、一理もないことなどないわけです。ある理と別の理のどちらをとるか。そこで、良い悪いの判断でなく、自由意志で判断できるかが経営能力と言えます。

向き不向きもありますが、この能力は、訓練できるものです。日常生活の中で、意思決定をするという意識を持って、その都度決めていく。そしてその結果を振り返る、という経験を積み重ねることです。最初は小さなことからでいいんです。仕事に限らず、その機会は意識すればいっぱい転がっています。

どんな人にも1日は24時間しかありません。その中で何かを得るということは、何かを捨てるということ。その意識を持った行動を重ねていった先に、優れた意思決定があり、経営の能力が開花するはずです。


楠木 建◎一橋ビジネススクール教授。1964年生まれ。89年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年から現職。専攻は競争戦略。主な著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)など、最新著は「逆・タイムマシン経営」(日経BPマーケティング)。

編集=鈴木奈央

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