生産体系から動物を除外することで、汚染という常時つきまとう脅威が取り除かれ、食料システムで抗生物質を使う必要もなくなります。これが、種の壁を超えた病気の広がりに対する脅威の解消につながります。これらはいずれも、公衆衛生や食料安全保障システム(ひいては、経済システム)に多大な恩恵をもたらします。
急速に広がる発酵製品への投資
代替タンパク質の業界に対するベンチャーキャピタル投資は、過去10年間で急速に増加しており、特にここ2~3年は伸びが急激に加速しています。この業界における資金調達額は、2020年上半期だけで2019年通年の調達額を大幅に上回り、初めて10億ドルを突破しました。その中でも、発酵代替タンパク質は、大きくシェアを広げています。その勢いは信じ難いほどで、発酵代替タンパク質の関連企業に対するベンチャーキャピタル投資のうち、85%がこの1年半の間に行われています。
この機会を目にした世界の食品、ライフサイエンス企業の大手数社(DSM、デュポン、ノボザイムズなど)が、発酵をベースにした製品ラインや代替タンパク質産業に適したソリューションの開発を行っています。食肉事業で世界最大手のJBSは、Ozoブランドの植物由来製品の代替タンパク質に発酵を活用しています。
こうした成長がみて取れますが、さらに多額の投資が必要です。
発酵は、世界の食のあり方を根本的に変える好機となります。これまでに有望な発酵技術を開発してきた企業はありますが、まだ初期段階にあり、資金不足で、多くは欧米を拠点とし、数も少ないという状況です。
発酵自体は、比較的成熟したプラットフォームではあるものの、そのプロセスのあらゆる段階、つまり、成分、供給原料、生産設備、風味と食感の改良などに、イノベーションと投資の大きなチャンスがあります。
例えば、発酵に使用する供給原料、つまり栄養源は、コストと持続可能性の両面に大きな影響を与えますが、微生物自体の増殖や組成、風味にも影響を与えます。従来の発酵プロセスでは、精製糖を主な供給原料としてきましたが、よりコストの低いものを利用したり、同時に他産業のプロセスのサイドストリームを利用して廃棄物をなくしたりするなど、大きな可能性を持っています。
また、世界で最大規模の発酵施設は、代替タンパク質の生産ではなく、他の産業向けに建設されたものです。発酵代替タンパク質のための施設は、最大規模のものであっても、食肉加工施設に比べて桁違いに規模が小さいのが現状です。そのため、製造能力とインフラをスケールアップするための資金流入の余地は、非常に大きいといえます。
経済シンクタンクのリシンクXが2019年に発表したレポートは、畜産業部門のディスラプション(創造的破壊)と崩壊の可能性を予測しています。ただし、この予測の大前提となっているのは、精密発酵のコストの漸減と質の向上です。
発酵を利用した製品が動物由来製品と同水準の価格になるためには、必要な規模および技術水準に到達するためのイノベーションと投資の促進が不可欠です。これが実現されることにより、発酵代替タンパク質の分野は、現代のタンパク質生産に大変革を起こし、より健康的、効率的、持続可能な世界の食料システムを構築する機会を、投資家に提供することができるようになります。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
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