──10日間というスピードもさることながら、ベストではない仕様でも即日搭載するというのは決断力ですね。
こだわりは強いですし、非常に頑固な人間なのですが、経験と常識だけを語る大人にはなりたくないと考えてきました。それに、僕らのようなスタートアップの勝機は、スピードと機動力があってこそだと思っています。なので、致し方なくオンライン対応したというのが正直なところですが、その結果、工夫次第でその良さを活かすことができるとわかったのは大きな収穫でした。
──どのような工夫をされたのでしょうか。
「質問オーダー機能」ですね。オンライン上の仮想レストランで出会い、ビデオチャットで会話するという形なのですが、「2人への質問」があるのです。「出身地はどこ?」「好きな食べ物は?」といった基本的なものからはじまり、「今までの人生でつらかったことを教えてください」「親のことをどう思っていますか」といったディープな内容も盛り込んでいます。そして、「お互いのいいなと思った部分を3つ挙げてください」といった、相手に関する質問を最後に聞いています。
この機能を設計した狙いは2つ。食事という会話の潤滑油がない初対面の出会いをサポートできるのが1つ。そしてもう1つは、リアルなデートではなかなか聞けないディープな項目を入れ、かつ相手に対するポジティブな気持ちを率直に話してもらうことで、内面を理解しやすくなることです。
──リアルだとお付き合いを重ねてもなかなかできない質問もありますから、かえって関係が深まるような気がします。
そうなんです。恋愛関係に発展するマッチングの数が急増しました。ビデオチャット機能だけではここまで効果が出なかったと思いますが、「質問」というアトラクションを用意したことがよかったですね。弊社のリモートワークもそうで、毎日18時からミーティングをしているのですが、以前よりもコミュニケーションが深まりました。細かい相談もできますし、タスクの進捗も確認し合いますので、組織全体にメリハリが利いてきました。
出会う機会の創出が世の中を変えると信じて
──「合理的かつ安全性の高い出会い」を生み出すというこだわりを保ちながら、状況に応じて変えるべきところは変える順応性の高さが印象に残りました。
本当に良いものは、1%のディテールにこだわるところから生まれると考えていますので、こだわることをやめようとは思いません。しかし、オンラインデート機能やリモートワークで新たな気付きが得られたように、その時々の状況に照らし合わせて「捨てるべき部分を見極める」ことも必要だと思っています。
やっぱり、変わることは重要だと思うんです。過去の私は「なんでも自分でやる」と考えるタイプでしたが、多くの優秀な人と関わることでその考えは捨てるべきと思えたし、今の状態に満足して変わることを怠ると、企業でもなんでもシュリンクしていきますよね。人間の幸福感も同じで、現状が良くても悪くても、変わることが求められます。
ぼくをこれまで支えてきた言葉が2つあるんです。1つは、大前研一さんの「人間が変わる方法は3つしかない。1つは時間配分を変える、2番目は住む場所を変える、3番目は付き合う人を変える、この3つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、『決意を新たにする』ことだ」。そしてもう1つは、リクルート創業者の江副浩正さんの「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」。この2つを信じているので、人と出会う機会を提供することこそ世の中のためになるはずだと思っています。そこはぶれることなく、時代や状況に応じたサービスに進化させていきたいですね。