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クリエイティブディレクター/コピーライター


夢見心地なまま床につき、爽やかに目覚めた朝。本当にいいものを飲食した次の朝は、身体の隅々にまで力が行き渡っている。

ブラインドを開けると、窓の外には朝日を反射してキラキラと輝きながら、どこかうっとりさせる湯気のもやをその上に漂わせる露天風呂。都会を遠く離れて過ごす、自分一人の朝時間。誰に気遣うことがあろう。朝風呂を心の底から楽しみながら思う、この湯は大地のエネルギーを熱として身体に伝えてくれる、生命の蘇生装置であると。



さらに、渓谷に向けて開かれた眺めと、耳に優しい沢のせせらぎが癒してくれる、館内の立ち湯「雪月花」も体験する。ここで温泉をはしごしていると、昔の言葉で言う「湯垢離(ゆごり)」をしている気分になる。それはただの入浴ではなく、心と身体のリハビリテーションなのだ。

着替えて向かった先は、朝食会場となる信州ダイニング「TOBIRA」。森に開かれた大きな窓のある広やかな空間は、眩い朝日に満たされていて、ここでも自然の恩寵を感じずにいられない。

運ばれてきたのは、なんら奇を衒わない日本の朝ごはん。漬物と一緒にいただく美味しい白米の一噛みひと噛みが、今日一日のエネルギーへと変化するような感覚を覚える。それに、小さな七輪で焼くしいたけの、なんと香りの良いこと。朝食後、そのまま部屋に戻ってもよかったが、足はそのまま外の森へ、寒いけれども空気の美味しい渓流沿いの散策路へと向かってしまった。そうさせる力をくれた、「明神館」の朝食であった。



「Satoyama villa 本陣」へ


チェックアウトを済ませた後、松本市内で昼食をとってから空港へ向かう──、確かそんな予定で聞かされていたのが、コンシェルジュたちはまたもや粋なサプライズを企んでいたのだ。



車で案内されたのは、かつて松本藩が参勤交代時に歩いたという江戸街道沿いに建つ「Satoyama villa 本陣」。松本藩主の旧本陣・小澤家が所有していた古民家をリノベーションした、「明神館」の兄弟にあたる古くて新しい宿、ということになるのだが、その前に立ち、のっけから度肝を抜かれる。古民家の言葉からイメージする規模とはまるで違い、とにかく巨大なのだ。



建物は木造3階建て。中に入って、欅の大柱を組んだ高さ13mの壮大な吹き抜け空間を見上げていると、目眩がしそうになる。トップライトから差し込む光は神々しく、どこかヨーロッパにある教会の鐘楼を思い起こさせるような荘厳さがある。



丁寧にリノベーションされた空間には、シンプルな中にも洗練と快適を両立するモダンな家具や調度品が日本の骨董家具と混在して置かれている。まるで時代劇の舞台のようなタイムスリップ感がありながら、クラシックホテルのようなオーセンティックさ、さらには和洋折衷の大正ロマンを感じさせる部屋もあり、そこに身を置くこと自体がインスピレーションに満ちたアート体験となる。

角を曲がるたびに、階段を上り下りするたびに驚きと発見のあるこの宿は、海外から日本を訪れる観光客のみならず、我々日本人にもまったく新しい宿泊体験を与えてくれるだろう。

しかも、城のような場所であった延床面積2240平米という広大な建物であるにもかかわらず、客室はわずかに4室のみ。「殿様ガーデンビュースイート」は121平米というから、スケールがめっぽう大きい。次はぜひここに泊まってみたいと強く思わされた。



見学の間に、囲炉裏の火で料理された野菜たっぷりのきのこ汁で、最後の最後までもてなしてもらう。粗食と言えば粗食だが、白米と山盛りの漬物を前に感じる多幸感はなぜだろう。「明神館」を経営する扉グループのもてなしには、紛うかたなきアール・ド・ヴィーヴルがあった。

編集、文、写真=大野重和(lefthands)

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