ビジネス

2021.01.06

味の答え合わせで大ヒット。これからのレストランの生きる道

「sio」オーナーシェフの鳥羽周作は1978年生まれ。Jリーグ練習生、小学校教員を経て、32歳で料理人へ。都内のイタリア料理やフランス料理の名店で修業を積み、2018年7月、「sio」をオープン。著書に『やさしいレシピのおすそわけ #おうちでsio』。



コロナ禍で「従業員の昇給」を実現




外出自粛をきっかけに鳥羽が重視するようになったのが、情報発信だ。

「これからの料理人は、料理をつくって終わりという一方通行ではダメだと思うんです。来店が難しい状況になって、そのことが浮き彫りになったと思います」

SNS上では「sioのレシピで唐揚げをつくったら、料理が下手な私でもジューシーに揚がった」「ちょっとしたコツでパスタが格段に美味しくなって驚いた」などの感想が毎日のように呟かれている。それらに向けて鳥羽が逐一リプライを送るのも、sioの日常風景だ。

「めっちゃおいしそうですね!」

アップされた料理の写真に、仕事の合間を縫ってシェフ自らコメントを返す。ツイッターアカウントのフォロワー数は、いまや5万9000人を数える。

「『つくる』から『伝える』『広める』へとシフトし、いま注力しているのが『届けきる』ということ。発信しても、お客にきちんと届かなければ意味がないからです」

料理人が、皿の上だけでなく、言葉を尽くしてメッセージを伝えようとする。職人気質の料理界ではあまり見られなかった姿勢だが、その理由を鳥羽は「『おいしい』のリテラシーを上げるため」と説明する。なぜおいしいのか? そこにどんな工夫が隠されているのか? 食べる人がそれを知ることで、食文化が発展し、産業の持続につながると考えるからだ。だからこそ、いままで目を向けてこなかった客のさまざまな要望に応えることが重要だという。

「『おいしい』には限りがある。限りがあるものを体験する場所がレストラン。飲食店の苦境ばかり語られますが、逆にコロナ禍で、レストランの価値は高まったと思います」

利益率の低いテイクアウトにレシピの無料公開、そしてSNSでの発信。sioが実践してきたことは、飲食店経営という観点からすれば、ささやかな営業努力かもしれない。だが、時流をとらえた方法で顧客接点のマルチチャネル化を図ったことで、来店客が増えるという好循環が生まれた。従来の経営手法に固執していたら、こうしたサイクルは創出されなかっただろう。

目指すのは「料理業界のキング・オブ・ポップ」。

桑田佳祐が皆に愛される音楽を第一線でつくり続けているように、飲食の世界でそれを実現したいと語る。

「むちゃくちゃ難しいことですが、それがビジネスとして一番大きい。目標のひとつはファミレスをつくることです。sioで料理界の高みを目指す一方で、ポップな唐揚げやナポリタンも大事にする。そうやって料理で『幸せの分母』を増やしていきたい」

最後に鳥羽は、驚くような台所事情を明かしてくれた。

「実は忙しくなって新たに人員を雇いましたし、スタッフの昇給もしたんです」

躍進を続けるsioは、現在も2カ月先まで予約が埋まっている。



シオ◎渋谷区代々木上原にあるモダンフレンチ。レストランのロゴは「くまモン」のデザインで知られるクリエイティブディレクターの水野学が手がけた。「sio」はミシュランガイド東京2020、2021で1つ星を獲得。19年10月、丸の内にアラカルトで楽しめる姉妹店「o/sio」をオープン。同年12月、渋谷にオープンした純洋食とスイーツの「パーラー大箸」を監修。

文=渡邊雄介 写真=佐々木康

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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