ビジネス

2021.01.09

豊田章男の分岐点 「逆境」にこそ発揮するリーダーシップ

特別連載『深層・豊田章男』


「リアルビジネスを料理の世界に例えるならば、テスラはまだ、キッチンもシェフも十分ではない中でレシピを評価されている。トヨタは、キッチンもあればシェフもおり、リアルな料理づくりができます」

ずいぶん思い切った発言といえる。

この章男のコメントは、テスラの時価総額ニュースに委縮する日本の自動車業界に対する激励の言葉と受け取ることができる。業界を背負う章男の「意地」と「覚悟」が見てとれるのだ。

トヨタの豊田章男とテスラのイーロン・マスク
トヨタは以前、テスラに出資して提携関係にあったが、その後は提携を解消している。写真は2010年5月撮影。(Getty Images)

加えて、章男はそのハラの内を語った。日本自動車工業会会長としての12月17日の発言がそれだ。

「(自動車走行時の)CO2排出量は01年度と18年度を比べると、2.3億トンから1.8億トンへと22%削減しています。平均燃費も01年度はJCO8モードで13.2キロ/リットルだったのが、18年度は22.6キロ/リットルと、71%向上しています。次世代の車(FCV, EV, PHV, HV, クリーンディーゼル)の比率は、08年度の3%から19年度は39%と、36%上がっています」

参考までに付け加えれば、欧州で日本よりEVが普及しているのは、政府による手厚い補助があるからだといわれている。

ドイツは、EVの購入者に900ユーロ(約11万円)の補助金を出すことを決めたほか、ガソリンスタンドへのEV充電器の設置を景気対策に盛り込んだ。フランスは、購入者の所得や車種によっては最大140万円の補助金を出している。日本のEVへの補助金は最大40万円である。

「欧米や中国などと同様に、政策的、財政的支援を要請したい」と、章男は述べる。

逆境のいまこそ、最大のチャンスに


章男はことあるたびにトヨタの枠を離れ、業界のリーダーとして広い視野から発言するケースが増えてきた。今後もその傾向は変わらないだろう。

「自動車業界はいま、ギリギリのところに立たされている」というのが、偽らざる章男のいまの心境だ。

危機の瀬戸際の打開策として、章男が胸に秘めているのが、〝仲間づくり〟だ。自工会のほか、部品工業会、車体工業会、自動車機械器具工業会、そして自販連の自動車5団体の連携強化だ。

コロナ後の自動車産業の牽引役となるべく、団体の垣根を超えて取り組むことを確認した。これは、章男のリーダーシップ抜きには考えられない。

自動車で日本を牽引するという章男の思いは、トヨタ自動車創業者の豊田喜一郎の「自動車で日本の人びとを豊かにする」という設立の原点からきている。理念である。自動車5団体の連携強化の根っこには、彼自身が語る〝ジャパン・ラブ〟がある。

逆境は、リーダーを育てるといわれる。だとするならば、章男にとって、いまこそが最大のチャンスといえる。

「私にとって危機とは、危機と機会。いわばピンチとチャンスの両方だと理解しています。これまで数あるピンチをチャンスに変えてきたわけです」

コロナ、脱炭素化、CASEなど、章男の目前には困難が立ちはだかっている。その正念場を乗り越えた先に、第2ステージの新しい章男像の誕生がある。


特別連載「深層・豊田章男」はこちら>>(第1回)(第2回)(第3回)(第4回

片山修◎愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手がけるジャーナリスト。『ソニーの法則』『トヨタの方式』(ともに小学館文庫)など、著書は60冊を超える。2020年4月に『豊田章男』(東洋経済新報社)を出版。

文=片山修

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