新年を迎えたニューヨーク 不動産事情とワクチン接種から見える「今」

Alexi Rosenfeld/Getty Images


ワクチン接種が12月半ばから始まる


リモートワークの経験値も積み上がり、コストが削減できるメリットを見て、企業の移転も始まっている。

ゴールドマン・サックスは、資産運用部門をフロリダへ移転させる計画を発表している。フロリダは「サンシャインステート」と呼ばれ、気候も良く、ニューヨーク市とも時差がなく、安く往復できるからだ。また、ニューヨーク市の金融関連会社約30社も、フロリダ州に何らか拠点を設けることを検討している。

コロナ禍後も38%は在宅勤務が続くだろうというレポートもあり、業績は上昇しても、金融の代名詞であるウォール街の人の流れが元通りになるとは信じ難い。

ニューヨーク・タイムズによると、生活に必要なエッセンシャルワーカーの比率が全米でいちばん高いミシシッピ州と、下から2番目のニューヨーク州では、人口比でリモートワーカーが10%は違う。ニューヨーク州はよりリモートワークで済ませられるスタイルのワーカーが多く、この点もコロナ禍後のオフィスへの戻りが遅れる要因になると推測できる。

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そんななかで逆の動きもある。アップル、フェイスブックなどのテクノロジー企業は、2020年にマンハッタンでオフィス契約をした。今後テクノロジー企業の中心地としてニューヨーク市の地位は高まる傾向にはある。

ワクチンの接種が進むことで商業不動産の回復を1年半程度と見込む不動産投資会社がある一方で、今後予想される商業不動産の危機を買い場と、現金を持った買い手がまだ虎視眈々と狙っている。

ブルームバーグによると、イギリスのサイモン・ルーベンとデービッド・ルーベンは、アメリカの不動産市場に昨年約2600億円を投資したということである。コロナ後の回復を見込んで、2020年が底値と、オフィス、小売店、商業施設、ホテルを買いまくったようだ。2001年の911アメリカ同時多発テロや2008年のリーマン・ショックの後にも、マンハッタンには同じタイプの投資家が出現したので、今回も同じ動きが出てきた。ウォーレン・バフェットが言うように「みんなが恐怖におののいている時に買う」を実践するタイプであるが、これはなかなかいない。

住宅市場では、賃貸情報サイトであるStreetEasyのデータによると、10月のマンハッタンの賃料の中央値は2880ドルまで下がり、2010年以来の低水準ということである。夏前に22%以上の住民が市外に逃げ出したと言われるニューヨーク市だが、郊外の生活に退屈さを感じて夏以降戻ってきていた層や、賃貸価格が安くなったチャンスによりグレードの良い部屋に借り換えを進めている人たちもいる。

昨年7月から経済活動の部分再開が始まり、夏以降売り物件の増加から、ブルックリン地区での住宅購入や、空室率の高さからレンタルも増えた。買い手は、より広く、テラスなど外のスペースもあり、部屋に洗濯機や乾燥機が付いていて、しかも至近に公園や緑の多い場所があり、地下鉄にも近いエリアを重視して、移り住んでいる。どれも「わかるなあ」と共感する条件ばかりである。

アメリカでのワクチン接種は12月半ばから開始された。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、ワクチンの接種を無料で実施するが、半年から9カ月かかるという見通しを示している。筆者が定期健診を受けているクリニックからは、早速「新年早々にはワクチン接種ができるようになりますので、スケジュールはすぐにお知らせします」とテキストメッセージが来た。

ワクチンの目途が確立したこともあり、2020年春先の「どうなるか展開も先が見えない不安」とは違って、新たにアメリカ政府から600ドルのチェックが支給されることも決まり、ゴールも遠くに浮かぶように見えてきた。ゆっくりと回復に向けての「仕込み」が始まっている予感もある新しい年の幕開けである。

連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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文=高橋愛一郎

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