また、環境問題に対応する事業として2016年には乾式オフィス製紙機「PaperLab」を発売したが、それを支えるドライファイバーテクノロジーは、多様な応用が考えられる。
インクジェット、ビジュアル、ウェアラブル、ロボティクスなど、応用可能なコア技術は豊富である。自社による技術開発からオープンイノベーションへ。それはまさしく企業文化の変革である。
セイコーエプソンがもつコア技術と、ベンチャーのもつアイデアが組み合わされば、新たな製品やビジネスが創出される可能性が広がる。
EXIはスタッフ5人でスタート。意外なことにメンバーは技術者ではなく、M&Aや経営企画を歴任してきた、経営のプロが集まった。
EXIの高橋章治COOは言う。
「高度な専門性をもったメンバーで構成していて、あまり数を増やすつもりはありません。技術開発本部とはダイレクトにつながっているし、エプソン香港と連携して調査や戦略支援を受けています」
投資対象は国内外を問わないが、ベンチャーソーシングにおいてアジアから中東までをカバーする香港現法の情報力は、強力な強みだろう。
不幸にもEXIの船出は、新型コロナウイルスという思わぬ災厄とぶつかってしまった。しかし、その状況をも逆手に取る形でスタートを切っている。
「海外のスタートアップ企業とリモートで瞬時に打ち合わせができる。かえってコミュニケーションの頻度は上がったのではないでしょうか」。高橋COOは、心配の素振りも見せない。「お互いに“会わないこと”が前提で話が始まるので、逆に早い。ここで決めよう、と話が進むことがあります」
そんなスピーディなコミュニケーションの結果、すでに5社ほどの投資対象がピックアップされているという。年内には第1号案件が生まれそうだ。
セイコーエプソン◎1942年創業。時計メーカーとして事業をスタートさせた同社は、その後、インクジェットプリンターや液晶パネル、ロボットなども開発。2020年3月期の連結売上高は1兆436億円。従業員数は約75000人。20年4月に子会社・エプソンクロスインベストメント(EXI)を設立した。
α TRACKERS(アルファトラッカーズ)◎独立系VCのグローバル・ブレインが2018年12月に設立した、オープンイノベーション推進に積極的な大企業を集めたコミュニティ。日本を代表するCVC運営企業をネットワーク化して各社の活動を支援していく。参画企業はKDDI、三井不動産など35社。Forbes JAPANはメディアパートナーとしてかかわる。