民主化とイノベーションは同義。 オードリー・タンが語る台湾の「上翼思考」

台湾のデジタル担当政務委員、オードリー・タン氏。


それは、ひまわり学生運動は抗議運動というより、新たな「デモンストレーション」、つまり協力して新しいヴィジョンを考え、その可能性を実演し見せてくる活動にもなれるのだということに。その後、彼らはひまわり学生運動に参加した35歳以下の若者を集めて、「リバース・メンターシップ」(※6)という制度を設立しました。

15歳の子の声に耳を傾ければ「未来は近づいて」くる


行政院副院長の張善正氏は、入閣前までグーグルのスーパーコンピュータを担当するテクニカルディレクターでした。蔡玉玲氏はIBMのアジア地域のコンプライアンス部長だった人です。私がこのリバース・メンターシップ制度によって、蔡玉玲政務委員の見習い顧問になったとき、蔡玉玲氏と使う言語は同じで、コミュニケーションはとてもスムーズでした。その後、私は政務委員として入閣しましたが、蔡委員は今は「g0v」(※7)で活躍されています。

これは、「クロスセクター」による「民主共作」が実行できた一例だと言えると思います。

鷲尾:立場や世代を超えた、柔軟な人と人との交流があるんですね。

オードリー:つまり、とてもシンプルに言えば、「誰とでも意見交換しよう」いう考え方です。「誰とでも」というのは、経済的あるいは政治的弱者を除くことなく多様な声に耳を傾けるという意味です。お金持ちかどうか、投票権を持つかどうかは関係ありません。

私は中学2年生の時に、校長先生の支援もあり、学校を中退しました。当時の私は、投票権もなければ、もちろん財閥とのつながりなども持っていない年齢でしたが、インターネットの世界、つまりソーシャルセクターよって運営されているコミュニティは、私が15歳かどうかなど関係なく受け入れてくれました。

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オードリー・タン氏

そして、何か良いアイデアがあれば、それをインターネットに上げてみると、世界を変えていく力になることを実感しました。たくさんの知識やノウハウをこのオープンコミュニティから学びましたし、ひとつの信念を持つことが出来ました。私自身の経験からですが、15歳の子の声に耳を傾けることできればできるほど、「目指している未来は、自分たちの方へと近づいてくる」と信じています。

(※6)「リバース・メンターシップ」:行政院(日本の内閣府にあたる)の大臣が、35歳以下の若者を「逆メンター」(=リバースメンター)として任命する制度。リバースメンターは大臣に新たな発想を与え、大臣は若者たちに行政の仕事や役割を教える。世代や立場を超えた相互の学び合いの仕組み。

(※7)g0v(零時政府 / ゴブゼロ):2012年、オードリー・タン旧知のチア・リャン・カオ(高嘉良)が中心となって「政府を『フォーキング』する」と提唱して創設されたオープンソース・コミュニティ。2020 年にコロナ対策で台湾海外でも広く知られ、マスクマップはこののコミュニティから生まれた。 (※出展:【全文】オードリー・タン独占インタビュー「モチベーションは、楽しさの最適化」
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