朝日新聞外交専門記者

山下裕貴氏(左)が中国訪問時、北京及び吉林省長春市(旧・新京市)の満州国政府庁舎(現・吉林大学)前で、同行の中国の案内人と撮影した写真(山下裕貴氏提供)

『オペレーション雷撃』(文藝春秋)。陸自中部方面総監などを務めた山下裕貴元陸将が11月、初めて手がけた小説として発表した。

題名は、中国の台湾進攻のための重要な作戦のコードネーム。「琉球独立団」を名乗る謎の集団が、沖縄県の多良間島を占拠する話も出てくる。

作品には、商社マンに化けた日本の内閣安全保障局員が中国・大連の中華料理屋で台湾情報機関の連絡員と情報交換をする場面が出てくる。旅順港の情景もある。いずれも、山下氏が取材旅行で得たスケッチを土台にしたものだ。

その一方、2回にわたった取材旅行で、山下氏は散々な目に遭った。

山下氏は2016年9月15日から19日まで、初めて中国の土を踏んだ。夫人や友人と一緒の観光旅行だった。訪問先は大連と北京だった。

すでに退官していたが、念のために防衛省に事前に相談した。防衛省側の回答は「中国の国内法に触れない限り、大丈夫でしょう。でも、行動を確認されるかもしれません」というものだった。

果たして、防衛省の言う通りの展開になった。山下氏らは入国審査から入念なチェックを受けた。大連から北京に国内線で移動する際、空港関係者から「一番最後に搭乗しろ」と告げられた。搭乗タラップの途中で黒いシャツの中年男性が山下氏らをにらんでいた。山下氏らが着席すると、最前列の席に座っていた他の乗客を移動させて座った。男性はおもむろに、山下氏を見ると、にやりと笑った。旅順の二百三高地で、少し離れたベンチに座り、ずっと山下氏らを凝視していた男も、やはり黒いシャツ姿だった。

北京のホテルでは、チェックインして荷物を部屋に入れた後、観光をしてから戻った。ところが、山下夫妻の部屋のカードキーだけ使えなかった。ホテルに苦情を言うと、「ありえない」と言われた。部屋まで連れて行って、実際にカードが使えないことを確認させると、ホテルの担当者は驚いた表情でカードを交換した。

山下氏は盗聴や盗撮を避けるため、風呂も使わず、妻とは筆談で会話した。北京での夜、知人たちと日本大使館そばの繁華街を歩いていると、「日本で日本語を勉強した」という飲食店の女性が近づいて、店に誘った。山下氏らが店で映画の話をしていると、カウンター席の男が「日本の方ですか。私は香港で映画を作っている」と話しかけてきた。偶然の連続に気味が悪くなり、山下氏らはすぐに店を出た。

2019年6月、再び訪中し、大連や瀋陽などを知人たちと訪れた。長春の旧関東軍司令部跡(現中国共産党吉林省委員会)正門付近で写真を撮ろうとした山下氏らを、2人の男が後方から監視していた。

文=牧野愛博

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