態度豹変 「火だるま」安倍前首相を突然大好きになった国

Photo by Eugene Hoshiko/Pool/Anadolu Agency via Getty Images


一方、私たち日本人も、安倍氏を批判する際、どうして第2次安倍政権が7年8カ月余りも続いたのか、いま一度振り返る必要がある。

微博に投稿された安倍首相退任時の映像では、当時の菅義偉官房長官ら、首相官邸のホールにあつまった官僚たちが約1分間、一心不乱に拍手を送り続けるシーンが収められている。

霞が関官僚の1人は「今、我々の間ではやっている言葉は、おっしゃるとおりでございます、だよ」と自虐的に教えてくれた。常に忖度が要求されるなか、永田町の政治家たちに意見することなど考えられないという。常に永田町に怒られないことを優先するため、政策を創造する余裕もなくなり、若手を中心に退官者が相次いでいるという。「今や、自分たちが国を背負っていると考えていた、かつての中央官僚の気骨などどこにも残っていない」と語る。

悪いのは官僚たちだけではない。この話を、今も永田町と付き合いがある元政府高官にしたところ、「おまえも、自分の胸に手を当てて考えてみろ」と叱られた。元高官に言わせれば、新聞や雑誌、テレビなどほぼすべてのメディアの政府に対する舌鋒が最近、厳しくなっているという。元高官は「なぜだか、わかるか」と尋ねながら、すぐ自分の見解を披露した。

元高官の見立てでは、安倍政権時代は、「官邸1強」だった。官邸の機嫌を損じればたちまち情報が枯渇するため、メディアもおっかなびっくりにならざるを得ない。

しかし、今は二階俊博自民党幹事長が菅政権発足に大きな影響力を発揮したことからもわかるとおり、権力が官邸と自民党、あるいは「安倍・麻生と菅・二階」といった構図に割れている。情報源が分散してくれるため、取材する立場からは、「官邸に嫌われても党がある」というように若干の余裕も生まれ、必然的に論調も厳しくなっているのではないかという指摘だった。

官僚であろうとメディアであろうと、権力を持つ者に忖度する姿は情けない。同時に、安倍前首相に対する論調の変化は図らずも、自民党の内紛激化を予告しているのかもしれない。

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文=牧野愛博

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