レジュメだけのマッチングは危険
志村氏は通常、スカウトされた人材が採用担当者と会う際に同席するという。「スキルや職歴、つまりレジュメだけでは本当のマッチングはできないから」だ。
「仕事における、あるいは人生における候補者の優先価値や嗜好がご紹介する企業の価値観やビジネスに対する将来的展望とマッチするかを、初回のカジュアルミーティングで確かめたいんです。それもあって、その際には社長自ら、プレゼンしていただくようお願いしています。社長の人となりや将来設計を直接伝えていただき、候補者の反応をみます」
とくに志村氏らが「縁組」するのは、経営者層、人事部長、CxOといった、企業の心臓部ともいえるポジションであることも多い。
「求められるスキル、たとえば『連結決算がわかるか』、『危機管理の経験があるか』という条件と齟齬がないかを確認することはもちろんですが、お互いのビジョンや『ここだけは譲れない』という相性を確認することはさらに重要です」
候補者の利益をどう考える?
ヘッドハンティングはあくまでも「クライアント企業向け」のサービスであり、候補者向けではない。そのビジネスモデルのもとで、候補者から信頼を勝ち得ることは難しくないのだろうか。必ずしも転職に乗り気でない、クライアントではない個人候補者と接触し、場合によっては「説得」もしくはクライアント企業のためのマッチングを成功させることに、難しさを感じることはないのだろうか。
志村氏はきっぱりとこう語る。「まず、紹介した候補者が3年勤続したのでOK、といった短期的マッチングばかりしていると、ハンターとしての品位やモチベーション低下にも影響します」。そして、候補者と接触する時には当然、その人物の人生にも資するように、という思いが自然に生まれるという。
また、志村氏は、転職はゴールではなくその先こそが重要と思っている。「転籍を成功とせず、入社してから成功してほしいんです。ですから、縁組成立が目的になってしまう、『やった、ゴールイン!』的なマッチングは、ぜったいにしたくありません」
実際、クライアント企業へマネージャーとして転職した候補者が、10数年後に役員になった例も少なくない。「つまりかつての候補者が、今度は戦略的人材採用の権限を持つクライアントになることもある。人材市場におけるそんなみずみずしい循環、エコシステムの媒介者となっていければうれしいなと」。
志村氏は最後にこう打ち明けた。「転籍後は、候補者にこちらから声をかけてお目にかかることは基本的にありません。ヘッドハンターとしては候補者に、紹介したクライアント企業で成功してほしいので。あくまでも黒子であり、透明な媒介者である仕事なので当然ですが、そこは少しだけさびしいですね」。