遺族ケアに取り組む精神科医によると、悲しみのあまりうつ病が認められ、死にたいと思う人もいて、その場合は専門家の治療が必要です。コロナ禍で、仕事・日常生活の変化というストレスがかかり、心身の不調を訴える人や自殺者も増えています。
悲しさや思慕は、時間がたてばなくなるものではなく、どんなプロセスを経るかや感じ方は人それぞれです。感情を表し、仲間と分かち合い、専門家のサポートを受け、グリーフワークをしながら、「愛する人がいない、新しい世界」に適応していきます。こうした情報を知っているだけでも、現状を客観的に見られると思います。
「彼の分まで、頑張って生きよう」
東海・北陸地方で、ホスピスナースの交流会を20年続けている水野敏子さんは、たくさんの看取りを経験してきたベテラン看護師です。
「近しい人だけでなく、有名な人が亡くなった場合も、影響を受けます。じかに交流はできなくても、その人に元気をもらって励みにしていた、声を聞いて、姿を見るのが生きがいだった。そんなスターの命が、突然失われたら、喪失感は大きいです。悲しみを共有する人が身近にいなければ、孤独に死を受け止めることになります」
看護を通して、理不尽な痛みや、死と向き合ってきた水野さん。「どんなに世の中に尽くしても、ごほうびもなく、辛い最期を迎える方もいます。死の背景がわからないと、残された人は『なんで?』と納得できず、どこに気持ちを持って行っていいかわかりません。ファン同士で気持ちを共有し、行動することには意味があります。映画を見て泣いて、今は声を上げていいと思います。
受け入れるのには、かなりの時間がかかります。思い出しては悲しむ毎日を過ごし、気づくと思い出す間隔が伸びていく。大好きなスターの死をきっかけに、誰でも死ぬよね、死は身近にある、だから命を大切に生きていこうと気づきます。今は辛いと思いますが、『春馬さんの分まで、頑張って生きよう』というところに、いつか到達できるのではないでしょうか」
連載:元新聞記者のダイバーシティ・レポート
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