だが、西山さん本人は「私は『外した』とは言ったけど『殺した』とは言ってないんです。でも(取り調べた刑事の)Aさんに『外したなら殺したのと一緒のことやろ』と言われて反論できなかったんです」と話している。真相を知るA刑事は何と言うのか──。
(前回の記事:「わしも自白には驚いた」冤罪の調査報道に元捜査員たちは?)
2019年3月に最高裁で再審開始が確定し、その後に県警キャップになった作山哲平記者(32)は再審が始まる直前の2020年1月、大津から車で高速を走り、ある警察署に向かった。西山さんの取調官だったA刑事がその署の刑事課長になっており、当直長をしている晩を事前に調べて会いに行った。
署の受付で名前を名乗り「当直長はいませんか?」と聞くと、若い署員が「いま近隣を回っている」と答えた。近くで時間をつぶし、ふたたび出向くと、署の玄関を入ったところで、奥から当人が歩いてきた。記者が訪ねてきたと知り待ち構えていたようだ。別の署員が警戒するように脇にいた。
作山「あの、当直長は?」
刑事A「はい。私が刑事課長のAです」
どちらかというと小柄で白髪交じりの男性の雰囲気は、別件の冤罪事件で暴行を働いて誤認逮捕したパンチパーマのこわもて刑事、というイメージから懸け離れていた。「地味でごく普通のおっさんで、むしろ気の弱そうな感じ」に作山記者は拍子抜けした。
作山「湖東記念病院のことで聞きに来たんですが」
刑事A「それは、個人的に話ができひん。いっつも言うてるねんけど、僕が個人でした捜査やないからね。お答えすることはできんですわ」
作山「2月3日から公判が始まる。当時の話も出ると思いますが」
刑事A「そういう話やったら、上のほうを通じて聞いてもらわないと。申し訳ないけど、個人的にコメントする立場にないんよね」
作山「被疑者の好意を利用して、話を聞き出したという指摘もありますよね」
ずばりと作山記者が聞くと、A刑事課長は明らかにどぎまぎした様子を見せつつ「答える立場じゃないんよねえ」と繰り返した。横にいた男性署員が弁護するように「われわれも、組織で動いていますんで。そういうこと言われると、答える立場にありません、と言うしかないんですよ」と口添えした。
それ以上聞いても同じ返答の繰り返しだった。作山記者の帰り際、A課長は「大津から来てくれはったの? じゃあ、気いつけて」といかにも愛想の良い笑みを浮かべ、見送った。