#供述弱者を知る


取材を重ねてきた記者たちに印象が全く異なる「2人のA」が現れ、取材班を戸惑わせた。この時、当初から取材をしてきた角雄記記者(38)と作山記者との間でちょっとした議論が起きた。

作山「Aのことですけど、今まで記事に書いてきたような人物像とは、ちょっと違うんじゃないですかね」

角 「というと?」

作山「会ってみたんですけど、被疑者を脅し上げてしゃべらせる、というようなことができる人には思えない。気の弱い普通のおっさんで、冤罪をでっち上げるような人物とはほど遠い印象なんです」

後輩記者から、これまでの報道が少しゆがんでいるのではないか、とでも言うような指摘を受けた角記者はすぐにこう言った。

角 「そうは言っても、Aは別の冤罪事件を起こし、そこでは胸ぐらをつかんで被疑者を蹴り上げ、大便にも行かせずにやってもいない窃盗を『やりました』と言わせていた。誤認逮捕は懲戒処分になっている。悪質な捜査をした経歴は否定しようがないよね」

作山「そうなんですけど、イメージが違いすぎて。いま県警を回っている限りでは特に悪い評判も聞こえてこないんですよね」

角 「若いころのAをよく知る県警の人は『あいつは使い方を間違わなければすごく仕事のできるやつなんや』って。つまり、危ないところがあったってことは、そうだと思うな」


A刑事は「アメとムチ」を使い分けるような人物なのだろうか (Shutterstock)

角記者が言うように、暴行、脅迫の末に別の冤罪事件をしでかした過去は消せない。脅して自白させ、その後は急にやさしくなった、という対応はこの事件で誤認逮捕された被害者と西山さんと一致する。それらを事実として伝えてきた報道が誤っていたとは思わない。

だが、作山記者の前に現れ、報道で伝えてきたかつてのA刑事とは別人のようなA刑事課長が存在するのも事実だ。管内の署の刑事課長として何度も接している川添記者に聞いてみた。

秦 「Aさんの普段の印象はどう?」

川添「取材で接するAさんは温和な人です」

秦 「じゃあ、事件の報道で描かれている人物とは違う?」

川添「表面的には。でも、若い署員たちへの振る舞いを見ると、相手によっては態度が違うのかなと感じたことはありますね」

文=秦融

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