『国際指名手配犯 私はプーチンに追われている』(ビル・ブラウダー著、原題:“Red Notice”)
作者のBill Browder氏はHermitage Capital Managementというヘッジファンドの共同創業者です。
同ファンドは最盛期にはロシア最大の外国人投資家にまで上り詰め、1997年には世界で最も運用実績が高いファンドとして注目を集めました。
当時はソビエト連邦が崩壊してまだ間もなく、ロシア中で企業の民営化が盛んに進んでいた時期でした。
しかし、大企業の多くは裏取引でタダ同然の値段で売り渡されてしまっていて、その結果、組織の腐敗が常態化し、企業の実際の大きさやお金の流れが不透明な状況でした。
そこでBrowder氏はそれらの企業の実態を調査し、時価と実際の資産価値との間に大きな乖離があることを明らかにした上で投資しました。
そして、株主アクティビズムを通じて矛盾や腐敗を暴くという戦略を取ったのです。
もう想像がつくかもしれませんが、この戦略は怒らせてはいけない人たちを怒らせてしまい、特に民営化の流れで新興財閥として強大な力を得ていたオリガルヒの逆鱗に触れました。
Browder氏は最終的にはプーチンに目をつけられ、2005年にロシアから強制追放されました。
しかし、話はそこで終わりません。モスクワにあった複数のオフィスが襲撃され、2億3000万ドル(約240億円)相当の税金が横領されました。
さらに彼の顧問弁護士であったSergei Magnitsky氏が逮捕され、1年にわたる拷問の末、獄中で撲殺されました。
まるで犯罪スリラーもののような読み応えで、守ってくれる法律やルールがほとんどない世界でファンドを立ち上げ、お金だけではなく命すら危険にさらされながらも奮闘する様子が描かれています。
目の前で起こっているかのような臨場感に引き込まれ、ページをめくる手が止まりませんでした。
連載:VCのインサイト
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