ボーの町長、ストゥーレ・ペデルセン(保守党)の狙いは、減税によりノルウェーの富裕層を集め、町の全体的な収入を増やして新たな経済的機会をつくることにあり、一部の富裕層は実際に移住を決めた。だがボーこの経済施策は論争を巻き起こしている。
ノルウェーの富裕税
ノルウェーでは所得税や社会保障費に加え、住民が国内外に保有する資産のうち150万ノルウェークローネ(約1800万円)を超える分に0.85%の富裕税を課している。うち0.15%は国に、0.7%は居住する自治体に支払われる。
ボーでは2021年1月から町に支払う富裕税がわずか0.2%に削減され、富裕税の合計は0.85%から0.35%となる。ノルウェーの公共放送局NRKの推計によれば、ダーリは年間で約200万ノルウェークローネ(約2400万円)の節税ができる見通しだ。
ボーにとって、この決断は合理的なもののように思えた。富裕層にとっては節税が可能となり、ボーにとっては富裕層の中でも資産が比較的少ない人に対してより高い税率を課していたときよりも収入が大幅に増える。人口が3000人に満たないボーでは、大きな違いを生み得る政策だ。
ペデルセン町長はノルウェー紙ハイ・ノース・ニュース(High North News)に対し、「私たちは何年も前に当局から見捨てられた」と言明。「この自治体に資本を呼び込むための方策だ。生き残り、雇用を創出するために必要なのだ」と述べた。
予想外の落とし穴も
ボーの決定は国が課す富裕税には影響しないが、ボーに移住する人がそれまで住んでいた自治体には損害が生じる。ノルウェーでは税平準化の規定によりこうした自治体は支援を受けるが、ボーには減税を決めた際には考慮されていなかった影響が生じる。
ボーは課税平準化により、すぐに富裕税の全額を受け取ることができない。従来からの住民が支払う富裕税が減額されることと合わせると、ボーでは今後、予想外の収入差が生じる。
国を挙げての議論に
保守党が率いるノルウェー政府は、2021年度予算でボーに対する支援を決めた。この決定に対し、左派の政治家からは怒りの声が上がっている。
左派社会党(SV)の財政政策広報担当者のカリ・エリーサベス・カスキは、政府の支援は「保守政治家同士の仲間意識の表れ」に過ぎないと一蹴。労働党のビョルナル・シャラン副党首は、ボーの税金を負担するのはノルウェー全体の国民だと指摘した。
ノルウェー北部地域は近年、深刻な過疎化に悩まされてきた。ボーの富裕税減税が成功すれば、北部の他の自治体もそれに続く可能性がある。広大なトロムス県やフィンマルク県の地方部の住民は既に、毎年の確定申告で追加控除を受けている。