そんな安心を担保しつつ、10月にモロッコの他のラグジュアリーホテルに先んじて再開を決めた理由は、100年近くこの場所に根を下ろしたホテルとしての思いがあった。旧市街と新市街の境の交通至便な場所にあるLa Mamouniaは、古くからランドマークとして親しまれ、地元の人々の誇りでもあった。
「2018年に世界一のホテルに選ばれた時には、地元の人たちが旧市街の街中で踊って祝っていた」とジョエムGMは振り返る。コロナ禍でモロッコの産業の柱の一つである観光業が危機的な状況にある中、万全な安全対策をした上でホテルを再度開くことが、「モロッコは観光客を受け入れる準備ができている」と世界に知らしめ、街全体を活気づけると判断したのだ。
コロナ禍でも、ブランドを落とさないため、客室料金は下げず、代わりに無料のスパ・トリートメントやギフトをつけることで価値を上げ、首都ラバトやカサブランカなど、国内客の支持を得ているという。
縁のあるモロッコからアフリカ開拓へ
それに拍車をかけたのが、10月に新しくオープンしたヴォンゲリスティン氏の2つのレストランで、「週末などは国内の宿泊客だけで満席で、地元客を断らざるを得ないほど」の人気だ。
世界で39店舗を経営するヴォンゲリスティン氏は、仏アルザス地方出身。実は「モロッコは19歳の時に初めて訪れた海外」なのだという。すでに見習いとして料理の仕事についていた当時、徴兵制があったフランス海軍のボートに乗り、上官の食事提供をしていた。
カサブランカに上陸し、鮮やかな色彩やスパイスの香り、エキゾティックな建物に魅了され、市場で買い込んだハリッサ(唐辛子ペースト)やレモンの皮の塩漬けなどを使って、帰り道に上官の料理を作り、とても喜ばれたという。後にエキゾティックな味をフランス料理に取り入れたスタイルで知られるようになるが、そんな自身の原点となった場所なのだ。
今回アフリカに初めての店舗を持つことで、モロッコからさらに深くアフリカを知り、開拓していければと考えているそうだ。イタリア料理もアジア料理も、野菜も多く使う栄養バランスの良い食事なのが共通点。「人生には何事もバランスが大切。新しいラグジュアリーとは、そんなバランスを取り戻すことなのではないか」と語る。
コブミカンの葉など、東南アジアの味を取り入れたフュージョンスタイルの「アジアティーク」