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「お悩みピッチ」はオンラインで開催され、各地で活躍する経営者たちが全国からアクセスした。アメリカン・エキスプレス法人事業部門ジェネラル・マネージャー兼副社長の須藤靖洋は、時折深くうなずきながらそれぞれのピッチに耳を傾けた。

2020年、Forbes JAPANとアメリカン・エキスプレスがタッグを組み、新たな“Backing”の取り組みとして、全3回にわたって「お悩みピッチ」を開催した。そこから見えてきた経営者コミュニティの新たな可能性、そしてこれからのリーダー像に、ファシリテーターたちが迫る。

経営や事業展開、人事、広報、ブランディングなど、経営者が日々向き合わなければいけない課題は尽きることがない。そこで、悩みや困り事を共有し、ほかの経営者にヒントをもらう場はできないか―日々奮闘するスモールビジネスオーナーを応援すべく、Forbes JAPANとアメリカン・エキスプレスは「お悩みピッチ」を立ち上げた。

このトライアルには、規模や業界がまったく異なる経営者が集い、対話することで生まれるビジネスソリューションへの期待がある。「お悩みピッチ」は地方で奮闘するスモールビジネスが集結した「ローカルジャイアンツ」、創業間もない気鋭経営者による「ライジングスター」、次世代のビジネスを模索する「ネクストスモールジャイアンツ」というカテゴリーで開催された。

ここでは各ピッチでファシリテーターを務めた齋藤潤一(こゆ地域づくり推進機構 代表理事)、井土亜梨沙(ForbesJAPAN)、内田研一(Small Giants審査委員長)の3人を本誌編集長・藤吉雅春が迎え、座談会を開催。新たな経営者コミュニティの可能性を探っていく。


誰かのお悩み=普遍的な課題「お悩みピッチ」で見えたもの


藤吉 3回のお悩みピッチでのファシリテーション、ありがとうございました。まずはそれぞれのピッチを通して何を感じたかを振り返っていただけますか。

齋藤 ビジネスの細部を見たら悩みは尽きないでしょう。ただ、お悩みピッチという場に立っていただいた経営者の方々は、悩み、そしてそれについて議論できることを楽しんでいるように感じました。行き詰まってしまう前にこうした場ができたことで経営者は救われ、それぞれの知見をもち寄って助け合うことで、スモールビジネスが加速していくのは確かだと思います。

内田 キーワードは「つなげていく」でしたね。というのも、私が担当した「ネクストスモールジャイアンツ」では地域貢献が見逃せない要素です。スケールさせるより、続けていくことに重点が置かれるのが伝統産業。携わる経営者には「次代につなげていく」という強い思いがあります。アイデアは確かに重要ですが、そのアイデアを磨き上げ、知恵にしていくのは人です。次の世代につなげていくことこそ、日本的な経営の美しい一面です。

井土 私はすべての回に参加し、「ライジングスター」ではファシリテーターも務めさせていただいたのですが、そのなかであらためて、経営者は孤独だな、と感じました。ピッチを通して初対面の方でも真摯にアドバイスされている様子を見ると、このような場がいかに求められていたかを痛感しました。また、「世直し」という要素も印象に残っています。今の若い経営者には社会課題や世界の問題を自分たちの力で変えていきたいという思いがあります。その手段としてのビジネス、ととらえて取り組んでいる経営者も少なくないのではないでしょうか。

藤吉 3回のお悩みピッチを通して思ったのは、ここで挙げられた悩みは経営者だけのものではなく、世の中すべてに共通するものなのではないか?ということです。例えばピッチで語られた後継者問題、技術の継承は喫緊の課題ですから。ただ、これらの悩みを解消する場はどこにあったか?これまではスナックがその一つだったでしょう。

経営者がなぜスナックに行きたくなるかというと、それは悩みを聞いてくれるから(笑)。本音で話せる場があることはいいことですが、一方的に聞いてもらうだけなのであまり建設的ではありません。お悩みピッチは建設的な議論ができ、明日につながるものがあります。


第1回ローカルジャイアンツ 地域の事業者を巻き込みたい「おてつたび」の永岡里菜、そしてサービスの認知度を上げたい「Carstay」の宮下晃樹が“お悩み人”としてピッチを行った第1回では、羽田未来総合研究所の大西洋や、自然電力の磯野謙をはじめ、地域ビジネスに精通する5人の精鋭た ちが“お助け隊”として集まった。いかに視野を広げてニーズを拾っていくのか。活発な議論が交わされた。

求められているのは“弱みを見せられる”新たなリーダー像


齋藤 お悩みピッチではリラックスしてほっとする経営者の姿がありました。そこで思い出したのが、シリコンバレーでの経営者コミュニティの変遷です。僕がいたころは、世界屈指のアクセラレーターであるYコンビネーターが強いエネルギーをもっていました。ランチ会にマーク・ザッカーバーグが顔を出したりするような場です。さまざまなベンチャーが生まれ、同時に格差も生まれました。その格差が新しいものを生み出すエネルギーになっていたんです。ところが、今のシリコンバレーはという
とメディテーションが推奨されるようになり、内省が指向されています。僕も日課のジョギング中に内省をしていますから、その方向性はわかります。

藤吉 内省に向かいますか。いろいろなかたちがありますが、私は80~90年代のシリコンバレーのエピソードを聞き、イタリアのボローニャに似ていると感じたんですよ。平場のカフェで、職人も市長も経営者も平等に語り合う場があり、アイデアが生まれやすいと思います。

齋藤 安全なところで自分の悩みをどれだけ吐露できるか。それがコミュニティの醸成に直結すると思います。本音で語れる場所がスナックだけじゃなく、お悩みピッチのような場として出てきてほしい。それが産業を生んだり、ビジネスのソリューションになったりすると思います。

その点でいうと、弱さを見せつつ、社員や部下には解像度高くビジョンを話せる。これが次世代のリーダーなんじゃないかな。田中角栄や松下幸之助のような強いリーダー像から、ちゃんと“弱みを見せられる”リーダーが求められるようになっていると感じます。

井土 私もピッチを通して同じことを考えていました。すぐによろいを脱げる人こそが、新しいリーダーなんじゃないのかな、と。戦いに臨むときはしっかりよろいをつけるけど、自分自身を出さなきゃいけない場では速やかによろいを脱げる。これが大切だと思います。

藤吉 イノベーションの創発、新しいリーダー像を探る場が求められるなか、お悩みピッチが経営者の新たなビジネスソリューションになっていく。そんな期待もふくらみますね。

内田 地域の経営者には圧倒的にインプットが足りていないと考えています。別の言い方で言えば、刺激がない。私が中小企業の支援に携わっていたとき、いちばん喜ばれたのは新しい視点を提供したり、新しい人を紹介したり、といった施策でした。経営者はプロセスに一生懸命取り組み、何とかアウトプットしようとしている。

だけど、インプットが足りないゆえに悩んでしまうことも多いんです。新しい人に会ったり、違った切り口で意見をもらえたりするインプットの場こそ、ソリューションの一つでしょう。その点、お悩みピッチが従来型のコミュニティと違うのはスピードです。即決で取りかかり、フィードバックして、さらに取り組んでいく。このサイクルを短期間で回すことでビジネスにも思わぬ化学反応をもたらしていく......そんな期待があります。


第2回ライジングスター 共に注目のスタートアップとして活発にビジネスを進める「AGRIST」の高橋慶彦と「Anylog」小掠康浩は、それぞれ「人材確保」「ブランド戦略」に悩みを抱えていた。「Ay」の村上采や「HARTi」の吉田勇也など、若き経営者たちがお助け隊として集まった第2回では、 サービスの独創性や物語性などを発信しいかに注目を集めるか、エネルギッシュな意見が飛び交った。

悩みを共有できる経営者コミュニティの必要性


藤吉 内田さんのご指摘は、まさに新たな経営者コミュニティの姿ですね。経営者がコミュニティをつくり、そのなかで悩みを 話し合えるメリット、デメリットはいかがでしょうか?

内田 「コミュニティ」という言葉がミスリードを生んでしまうこともあるんじゃないかな。ノリと文化が合う「仲間」と考えたらわかりやすいですよね。

その仲間で、いかに文化を醸成していくかが大事。コミュニティではよい企業文化を共有できる場をつくることが大切で、その文化が凝り固まらないよう、適度にもみほぐしながら進めていくのがよいと思いますね。

藤吉 「コミュニティは仲間」「コミュニティは文化を形成する場」という説明は非常にわかりやすいですね。私は日本の企業は文化をあまり熱心につくってこなかったのではないか、と思っています。強い組織には確固たる文化がありますからね。

井土 コミュニティのデメリットはメンバーが固定しているとなれ合いが発生し、何度集まっても同じ答えしか出てこなくなる点でしょう。お悩みピッチの参加者はほとんどが初対面ですが、終わったときには一つのコミュニティだと確かに感じられる瞬間がありました。これはなぜかと考えていたんですが、それはお互いに弱みを見せ合ったからなんじゃないかな、と。悩みを共有し、解決策を模索しつつ、メンバーは常に入れ替わって新しいアイデアが投入され、動き続けていく。これが未来のコミュニティに近い姿ではないでしょうか。

齋藤 コミュニティになれ合いは要らない。まさにその通りで、重視すべきは「ゴールの共有」だと考えています。ベンチャーなら、解像度の高いビジョンをどれだけ共有できるかが重要です。地図ではなくコンパスをもつこと。つまり、目指すべき北極星を共に見上げることです。北極星に歩みを進めていくなかで、仲間、コミュニティをつくっていくのがベストでしょう。

内田 コミュニティを日本語にすると「感覚共同体」といったところでしょうか。距離は離れていても、感覚が共有できていると感じたら、それは共同体なんです。コミュニティの手段がオンラインかオフラインなのかはさまつなところ。感覚を共有できる共同体―同じ認識をもつために日本語に置き換えたら、具体的にわかりやすくなると思うんですよね。


第3回ネクストスモールジャイアンツ 江戸切子「華硝」の熊倉ちさとと木製雑貨「Hacoa」の市橋人士が、共に伝統工芸を受け継ぐ企業の代表として抱えていた「感性の伝承」「後継者問題」に対し、「前田源商店」の前田市郎や「染の里おちあい」の高市洋子ら、同じく「つなぐ」ものをもつ者たちがアドバイスを送った。お悩み人・お助け隊の垣根を越えて、苦悩を分かち合う時間でもあった。

藤吉 新たなコミュニティ像への期待が広がりますね。コロナ禍で人と人との関係が希薄になるなか、どのような仕組みづくりが求められるでしょうか。

井土 ピッチはいずれもオンラインでしたが、ある程度の信頼関係は築けるという手応えがありました。その時々の悩みをタイムリーに共有し、スピーディにアドバイスし合えるコミュニティが必要です。参加者がよろいを脱ぐと、瞬間的に信頼関係が築ける。そんな場を考えていきたいですね。

内田 コミュニティを形成する個々の経営者の独立が大前提だと考えています。お互いに前向きにやれる余裕をもち、助け合うという意識を共有できる場づくりが求められるでしょう。これは極めて日本的に思われるかもしれませんが、それこそイタリアのボローニャの場づくりにも近いものです。金融中心の超過利益にフォーカスするのではなく、穏やかなコミュニティづくりにシフトしていく。お悩みピッチはまさにその過程にあると思います。

齋藤 おっしゃる通りで、まさにコミュニティは時代とともにアップデートされ続けていくものです。私たちがOSだとしたら、コミュニティはアプリケーション。特に、Withコロナの世界ではさまざまなアップデートを許容していかなければなりません。ただ、根底にある理念にブレがあってはならない。ふと思い出したのですが、アメリカン・エキスプレスは運送業から発祥し、時代と共にアップデートして現在のビジネスに至っています。本日出たさまざまな提言のように、コミュニティを不断にアップデートしていくのが望ましいでしょう。

藤吉 オンラインからコミュニティが広がり、大きなチャンス、ビジネスを生んでいく。今後のお悩みピッチの取り組みにも大きな期待が感じられますね。


CROSS TALK  アメリカン・エキスプレス 須藤靖洋×Forbes JAPAN 藤吉雅春

「お悩みピッチ」終えて、アメリカン・エキスプレスの法人事業部門須藤靖洋は「誰かの経験が誰かの知恵になる。そう確信させてくれた場でした。組織の枠を越えて互いの知恵を出し合い、感謝が飛び交う様子は印象的だった」と話す。

本誌編集長 藤吉雅春もまた、お悩みピッチがビジネスコミュニティの新たなカルチャーになるのではないかと期待を寄せる。「いまは1社だけで生き残れる時代ではなくなりました。行政や地域の事業者と組むなど、助け合う必要が出てきています。ただもうけるためだけではなく、普遍的な課題についてみんなでアイデアを出し合って解決する、というお悩みピッチのあり方は、そうした流れにもあっているように感じました」(藤吉)

そのなかで、「若い世代の経営者たちの姿に、我々が学ぶことも多かった」と須藤が言うように、世代を超えた対話が生まれたこともまた、大きな価値だ。2人は、「すべての経営者を支えるひとつの場として、お悩みピッチをこれからも盛り上げていきたい。悩みを打ち明ける勇気が、ビジネスをアップデートしてくれるでしょう」と、思いを強くした。



根底は変わらずアップデートを



アメリカン・エキスプレスが運送業として創業したのは、アメリカ・ニューヨーク州がゴールドラッシュに沸く1850年。貴重品の運送が危険な時代だった。そうした背景から、創業期のロゴには「信頼と安心」のシンボルとして、顧客の大切な荷物を守るブルドッグが描かれた。常に顧客の視点に立ち、成功を手助けするという理念は揺るがない。時代によって変わるニーズに応え、顧客にとって“なくてはならない存在”となるためにビジネスを、コミュニティを、進化させ続けている。

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そう、ビジネスには、これがいる。
アメリカン・エキスプレス

Promoted by アメリカン・エキスプレス│text by Masataka Sasaki | photographs by Jokei Takahashi | edit by Miki Chigira

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