上川法務大臣がすべてに答えた。「性犯罪」が直面する本当の問題点

上川陽子法務大臣


この法律の前文には、「全ての犯罪被害者は個人の尊重が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」といった基本理念が記され、画期的とされた。ただ、この「権利」と盛り込むことについて、国家の責務が生じることから反発も大きく、2012年のラジオ出演の際に「権利の2文字の明文化に対する抵抗は、犯罪被害者の皆さまの必死の叫びによって打ち破られたのです」と語っている。

以来、上川大臣は「犯罪被害者の問題」を政治家としてのライフワークとしている。その後、2014年10月から1年間、17年8月~18年10月に法務大臣に就任。今回は、森まさこ前大臣の引き継ぎを受け、今年9月に再任した。過去の法務大臣の変遷を見ても、3度目の就任は珍しい。

「私は犯罪被害者等基本法の成立に携わりまして、被害者の方々の声を大事に法律を制定して、権利・利益の保護ということを打ち出したわけですけれども、性犯罪刑法の対応の中でいろんな被害を被っている方々の切実な声をしっかりと受け止めていきたいと思い、いまも一生懸命取り組んでおります」

犯罪被害者等基本法を巡って、上川大臣は被害者だけでなく加害者側の家族にもヒアリングをしており、あらゆる立場に目を向けてきた。

ここで冒頭の「自分ごと化」の話に続くが、上川大臣はこう付け加えた。

「誰もが犯罪に巻き込まれる、被害者になりうるということを前提に、被害者やそのご家族が抱える問題は決して他人事ではないと思うこと、明日我が身や家族にかかる問題かもしれないと捉えていく必要があると思います。犯罪被害者の方々の声に真摯に向き合って、法制度の改正や制定に力を尽くしていく、これが私の基本的なスタンスです」

性犯罪刑法改正の意欲は


実際に、2017年の性犯罪刑法改正後には、自民党議員有志の検討組織として同年12月に「性暴力のない社会の実現を目指す議員連盟(ワンツー議連)」を発足し、上川氏は会長を務めてきた。法務大臣就任前の今年6月には、さらに今後3年間を性犯罪・性暴力根絶に向けた「集中強化期間」と位置付け、刑事法の検討や再犯防止、被害者支援、教育・啓発などに取り組む「強化方針」の策定を政府に緊急提言している。

このような背景もあり、性犯罪刑法に対して、改革への意欲は高いのだろう。その点を尋ねると、上川大臣はこう言った。

「2017年の刑法改正につきましては、110年ぶりの改正であり、大変意義のある一歩を踏み出したと思っております。制定までの過程の中で、被害者の方たちの声もたくさんございましたので、法制審議会でも検討を加え、刑法改正に至ったのですが、改正に至らなかった点もございます。3年後の検討条項というのは、3年後に始めるのではなく、制定後からこれまでの3年間を大事な時間として、活動を進めてきました」

上川陽子法務大臣

法務省内でも、前回の大臣就任時であった2018年4月に性犯罪に関する実態調査のワーキンググループを立ち上げ、2020年3月に被害者心理の研究や当事者のヒアリングなどを元に現状や課題を取りまとめた。これを踏まえて6月からは、性犯罪に関する刑事法検討会を設置。被害当事者で、Spring代表理事を務める山本潤氏も参加し、識者とともに議論を進めている。
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文=督あかり 写真=帆足宗洋

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